(佐久間)同級生














 意識














ーノート貸して」


「ふざけんな」




教室の窓から上半身を覗き込ませた佐久間が言う。


私は間髪入れずに一蹴してやった。おいこらふざけんな。


ネタはあがってんだぜ?アンタ聞くところによると


ハードな朝練のせいもあってか授業中居眠りに精出してるみたいじゃない。


誰がそんなやつにノート貸すかってんだ。それに1度2度ならまだしも


今回7度め。ちょっと明らかに授業受けるきないでしょ。


明らかに私のノートあてにしすぎでしょ。ちょっとは苦しみなさい。




「次、科目違うんだろ?減るもんでもなし」


「減ります。律儀にまじめに受けてた自分が


 ばかばかしくなってやる気とかその他もろもろ減ってきます」


「なにそれ」




あ、今ちょっと痛そうな目で見やがったな。わかったもう貸さない。貸すもんか。


佐久間は呆れた風にくすくす笑いながら丁度空いていた


私の前の椅子に腰掛ける。肘を私の机に置くように振り替えると


何をするでもなく肘杖をついてじーっと見つめてきた。


なんだこいつ。暇してんの?私はできるだけ興味ない振りして作業を続ける。


ちくちく。ちくちく。フェルトに針を突き刺していく。




「何作ってんの?」


「ん、ストラップ的な?」


「へー」


「絵里が明日試合らしくって」


「あぁ、武田?女バスだっけ」


「そそ」




作業に夢中になり時折無口になってしまう。


けれど佐久間は特にどうも思ってないらしくじっとそれをみてる。


くそう美形め。何食べたらそんな美人になるんだよ。


まつげ長いし、瞳すっごい綺麗だし、かみさらっさらしてるし。


女の私が嫉妬しちゃうくらい。絶ッ対言ってあげないけど。




糸を替えて。玉結びをして、ボールの形になるように。


あ、名前も入れたげよ。「エリ」って。喜ぶかな。




「器用な」




言葉は返さずにちらり、と佐久間のほうを盗み見ると


ちょうど褐色の瞳と目がぱちりと合って動揺してしまった。


そういえば。そういえばだけど。ちゃんと、こいつの顔見たことなかったな、なんて。


エスカレーター式のこの帝国学園の中等部から入学した私。


1年のときはおんなじクラスだったけどあんまし絡んだことなくって。


しいて言えば名前が「佐久間」と「」で近いって理由で


よく同じ班になることは多かったけど。佐久間は基本サッカー部の


メンバーとつるんでることが多かったし。私自身彼に


近づきがたい雰囲気を感じてたってのもあるし。あれ。


ちゃんと絡み始めたのいつからだっけ?あ、源田かな?


あぁ、そうだそうだ。源田だ。源田がサッカー部で佐久間とよくつるんでたんだ。


源田いわく佐久間のぶすっとしたのは人見知りって言ってたっけ?


で、2年になって私だけがクラス別れちゃったけど佐久間は


今でもこうして絡みにくるし、ちょっかいも出しにくるし。


そういう意味じゃあ人見知りとけたってことなのかなー。




「ね、


「何」


「手、とまってるけど」




はってなった。ぼおっとしてたことに今更気がついて


なんだか佐久間を見つめてる感じになってしまって急に恥ずかしくなった。


佐久間は相変わらずじっと私を見つめて




「 見惚れた? 」




なんて言ったものだから、私は咄嗟にノートを投げつけた。




「ほら、もう用事済んだでしょ」


「いってー。ったく、ま、サンキュ」




ガタンと佐久間が立ち上がるとタイミングよくチャイムが鳴り響く。


クラスのざわつきもこれをきっかけに落ち着いてくる。


教室から出て行く手前、佐久間はあっと思い出したように。




「あ、来週俺も試合なんだよね」




にっと笑って。


何も言い返せぬまま先生が入ってきて慌てて道具を片付けた。


なにそれ。なにそれ。なにそれ。




「(意識、しちゃうじゃん……)」




白と黒のフェルトはまだたくさんあまっている。














(どうしたんだ、佐久間。なんかいいことでもあったのか)


(別に?来週の試合が楽しみだなってだけ)


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