(カゲプロ・カノ夢・ほのぼの)













 関係














怪物に会ったあの日。


私は焼きつけるような痛みとともに厄介な力を手に入れた。


禍々しく色づくは赤。周りから拒み避けづまれる原因ともなった色。


自分と同じ苦しみを持つ彼らに会えなかったら私は今頃どうしていたんだろう。


全く想像ができないな。だってそうだ。今の私には仲間がいるから。


共に苦しみを分かち合える仲間が。絶望を知っている仲間が。


私には居場所がある。









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アジトの扉をっくぐった瞬間ソファにたたずむ2人の見知った姿を瞳に映す。


一人は深緑のつなぎを着た青年、セト。そしてその隣にぴったりと座るのは


白いパーカーにゆるいオレンジ色のゆるい三つ編みが特徴の少女、


に関しては普段は「何がそんなに楽しいんだ」と言わんばかりの笑顔が


この時は一切見られる様子がなく、むしろ消えてしまっていて、


カノはその違和感に首をかしげた。何かあったのだろうか。


隣に座るセトにぐったりともたれかかり、身を預けている。




あ、そこ代われよお前。僕の場所なんだけど。




とか内心一瞬思っちゃったのは内緒。思っちゃったのは思っちゃったのだけど


背中から回したセトの手のひらがの目を覆い隠している事に気が付き


目の関係か、と長年の付き合いから推測することができた。


すぐに思考をぐるぐると巡らし、今まで2人は任務に行っていたのだということに


辿り着くのがやっとのことだった。そこまで考えていた時、


セトはカノの帰宅に気が付きやんわりと微笑んだ。




「どしたの、


「ちょっと帰りに死に際の猫見つけちゃって」


「あぁ」




セトの言葉は多くを語らず、といった感じだった。


おそらくすぐ傍で聞いているかもしれない彼女のことを気にしての配慮だろう。


そんな言葉足らずの言葉であったがおおよそのことは予測がついた。


まだ彼女は「目」の制御が完全に出来ていないから。


日常茶飯事とまでは行かないものの、ふとした時にこういった


精神疲労に追いやられている。




「(厄介な能力だしね…)」




ふぅっと息を吐くとセトに変わるよ、と一言告げる。


セトは二つの返事でそれに答え場所を譲った。は今まで目を覆っていた


セトの手のひらが離れ、瞼ごしのまばゆさと冷めていく体温に


ぐっと身じろいだ。眉をぎゅっとひそめている。すぐさまセトが座っていた位置に


身体を滑り込ませカノはそっと自分の肩に彼女の頭を引き寄せた。


ぐったりとさせた彼女の頭は少し熱い、ような気がする。




「……カノ?」


「んー?まだ晩ご飯まで時間あるみたいだしもうちょっといいよ、こうしてて」


「でも、カノ」


「あ、それとも部屋で横になる?付き添うけど」


「ん、大丈夫」


「そ」




声がか細い。本当にまいっているようだ。


セトみたいに目を覆うなり肩を寄せるなり手を繋ぐなり、


してあげられたらいいんだろうけど。カノの両手は行き場をなくしたまま


太股の間で退屈そうにしている。それが僕。冗談ならいくらでも言えるくせにね。


……好きな子の手さえ握れないんだから。




「見ちゃったの?目」


「う、ん…。最近はずっと大丈夫だったんだけど」


「びっくりしちゃった?」


「うん」




そっか、と呟いた。会話が自然と途切れる。彼女の体温だけが


肩、首、耳と触れている部分から伝わってくる。体温も落ち着いてきている。


もうじきこの興奮状態も落ち着いてくれるだろう。




“目を読む”


彼女は対象の目を見ることで意思や心理を読み取る能力を持っている。


目は口ほどにものを言うというが、彼女曰く「脳裏に映像として流れる」とのこと。


しかし制御がまだ未熟なためか時折こんな事態を繰り返している。


意識していないというのに勝手に対象の目を認識し吸収してしまうというのだ。




今回の対象は、猫。


セトの話を聞いたところから予測するに死にかけの猫の目を見ることで


死にかけるまでの過程を読んでしまったのだろう。


通りかかった子どもに乱暴をされたのかもしれないし、


飛び出した瞬間自動車に轢かれてしまったのかもしれないし、


ただ単に老いや飢えでじわじわ弱っていたのかもしれない。


詳細は彼女のみが知ることだ。聞き出すようなことではない。


は少し落ち着かない様子で身を起こそうとする。




「ごめん、大丈夫だから」


「なーにが?」




けど、ちょっと服の裾を引っ張るだけで簡単に阻止することができた。


重いからだとか、迷惑だからとかそんなのもあるけど


一番は弱っているところを見せたくない、というのが彼女の本音だろう。


ニコニコ笑ってるのも寂しかったり辛かったりを相手に伝えないため、


だなんてことここにいるメカクシ団の団員ならだれでも知っていることだ。


まったく、長い付き合いなんだしたまには駄目な部分も見せてくれていいのにね。


気を許す、許さないとかそんな事じゃなく根本的に甘えべたなんだから。




「この席が一番テレビ見るのに適してるんだよ」


「………」


「僕がここにいたいだけ」




幸い、つけっ放しのテレビからは有名な芸人が司会を務める


バラエティー番組の放送中だった。特に見たいわけではなかったけど


見ているフリをしようか。欺いてあげましょう。ま、の目に映せば


すぐにそんな嘘は見抜かれてしまうわけだけど。




「カノ」


「ん?」




あ、きっと見なくてもばれてるな。へったくそな嘘だったし。


でもいいや。嘘だって、なんだって。の前じゃあホントになるんだし。




「そういうとこ好きだよ」


「………」




不意打ちって卑怯だよね。














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