(年上ヒロイン・甘々・ちょっとカノさんがガツガツしてますw)














 えがお














陽気なテンポを口ずさみながら軽快な足取りで帰路につく。


部屋を出た時には持っていなかった右手の存在に、色々な思いと期待を込めながら歩く。


足取りはとても軽い。今の彼なら仮面など被らなくても


人あたりのいい笑みを容易に浮かべることができるだろう。


実際、口元はゆるみ目つきの悪さをなかったことにできるくらいに穏やかなものに見える。




姉ー」




目的の人の名前を呼ぶ。こんこんと軽くノックをする。


中の住人はすぐに「あいてるわよ」と教えてくれる。


扉の奥から顔を覗かせたのは目的の人物、


ふわふわの栗色のポニーテールが首をかしげる動作で揺れた。


なんとなく触りたくなって歩み寄り、手を伸ばす。柔らかい肌。感じるように


指を耳、頬、顎のラインをなぞるように滑らせていく。


くすぐったそうに目を細めた表情がとても愛おしくてため息が出る。




「ふふ、可愛い」


「…こら」




照れたように唇を尖らせる。


ごめんごめん。でも、本当のことなんだけどなぁ、なんて思う。


そして、何も言わずに唇を重ねた。




「ん…」




喉の奥で声が押し殺される。名残惜しさを感じながらもゆっくり唇を離すと


彼女もそう思っててくれていたのかとろんとさせた瞳をこちらに向けてくる。


くっそ、反則。隙だらけの姿によからぬことを考え出す自分を理性でねじ伏せ


隠しきれずにこぼれた笑みが声としてこぼす。くすくす。あー可愛すぎ。


可愛い、可愛い、僕の彼女。ようやく手に入れたもの。


毎日そばにいたって飽きない。仕草とか匂いとか声とか、髪も肌も唇も


全部全部僕のなんだって思うと本当に嬉しくなってくる。これが独占欲ってやつなのかな。




いくらでも抱きしめたり、触ったり、なでたり、キスしたり、噛み付いたり、それから……。


あーやばいやばい。頭が沸いてるや。キドもセトも出かけているこの時間帯。


この室内にふたりっきり。彼女といえば「もう…」なんて言いながらも


ちゃんと僕に委ねてくれてるって感じがする。たまらなくそれが愛おしいし、


幸せだなーって思う。ずっとこんな日々が続けばいいのに。あーあ。ふふ。




「ねぇ、姉」


「なあに?」


「大好きだよ。すっごく」


「ふふ、嬉しい」


「本当?」


「ほんと」




彼女の目が僕の目を見て少し揺れる。あ、いまキスしてくれようとしてるでしょ。


彼女が自分からしようとしてる時、決意がなかなかできないときこんなふうに


ぎこちなく瞳を揺らす。知ってる。ふふ。そんな時僕は目を閉じて


唇をいたずらっぽく突き出してまつ。ため息がすぐそばで聞こえた。


が「まったく」と思った証拠。そしてしばらくして期待していたものが触れる。


けど、触れる程度。恥ずかしがりやな彼女はすぐに離してしまう。


知ってる。――だから、離さなかった。




「ん――!」




さっきよりも驚きが隠せない声がこぼれた。


僕はすこし得意げに角度を変えて何度も何度もキスをする。


リップ音と吐息が徐々に激しくなっていく。抵抗するものだから


いつの間にかベッドの上に座っていたはずなのに、押し倒すような形になってしまった。


息が苦しくなったのか胸をどんどんと叩かれて仕方なく開放した。


ほんの少し涙を浮かべた瞳。ものいいたげにじっと見上げる。


彼女が何か言う前に僕はおでこに軽くキスをして「ごめん」と謝った。




「怖かった…?」


「……少し」


「そっか。ごめんね」




仲直りのハグ。ぎゅーって口で言いながら抱きしめると、


彼女もぎゅーっと言い返してくれた。




「今日はどうしたの?」


「んーちょっとね、一緒に食べたいなーって思って」


「え?」


「マカロン。前にテレビ見てて食べたそうにしてたじゃん?」


「あぁ、あの通りにある喫茶店の?買ってきてくれたの?」


「たまたま通りかかったからね」




はい、嘘。あんな辺境の地にある喫茶店なんか寄り道しないと行きません。


けどまぁ、食べたことないらしい彼女があの時テレビをじって見つめてるんだもん


これは甘やかしてやんないとかなって思うじゃん?


そう思ったらいてもたってもいられなくなって気づいたら足が動いていた。




「どうしよう…。すごく嬉しい…」


「ふふ、よかった」


「ありがとう、カノ…」


「いいよ。あ、今度は二人で行こっか?ラテアートとかもあるみたいだよ」


「そうなの?行きたい!」


「じゃあ決まり」




小指どうしを絡ませて約束する。


思わずにっこり。僕も、君も。




あーあ、僕。幸せだなぁ…なんて。














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