(オニオンナイト)
おでこ
「勝負しようよ」
唐突に、何の前振りもなくオニオンは彼女に言った。
流石の彼女も一瞬戸惑う。
「何でまた急に?」
「ティナが、は強いっていうからさ。ちょっと手合わせしてみたく、ね?」
「手合わせ……。そうだね、お互いの力を知るためにも、いいかもね」
「よし、決まり!」
腕を引っ張ってさ、いこう!と誘うオニオン。
は「え、今から?」と困惑しながらもオニオンについていった。
+
広い場所へと来た。
周りには多少の障害物があるのみ。
人はいない。
彼なりに気遣いもあるのだろう。
その反面それだけ本気だという事。
(剣術の近距離…魔術の遠距離…か)
割と細身な剣。
彼の体はまだまだ幼い。
クラウドが持っているような大型の剣は到底使いこなせないだろう。
けれど彼にはそれを補う頭脳と、魔力がある。
オニオンナイト。
伝説の称号。
は彼を見据えて杖を振るった。
「本気で、来なよ」
「負けないよ!」
その言葉を合図に戦闘が始まる。
最初に彼のほうから仕掛けてくる。
こちらが完全なる魔法タイプと分かっているから遠慮することなく向ってきた。
… サンダラ …
「遅いよ!」
… 流剣の舞 …
手元から雷撃が離れる前にオニオンは剣を後方に引く。
は繰り出す手を止めてバックステップを踏んだ。
空中にいるを今度はブリザドが襲う。
ははじめの数体を杖で弾いて致命傷だけは避けた。
腕にす、と細い線が出来る。
(早いな…どっちか止めるか)
剣術か魔法。
ダブルは流石にきついと踏んだ。
さて、どうしたものか。
「連続攻撃とか、容赦ないね」
「隙を与えたら魔法、だろ?それもティナより強力なやつ」
「はっ。正解……っと、これお返し!」
フラッドを繰り出す。
短い詠唱。
水泡がオニオンを襲う。
彼の速さならば問題なくよけられる。
その合間にぐっと距離を縮めた。
「ふうん、そっちから来てくれたんだ。……集え、星たち!行けー!」
… プチメテオ …
「う、わ…!」
自分目掛けて飛んでくる。
初めてみる魔法には思わず声を零した。
柱同士を飛び交いながら全部をよけると、
右手の人差し指と中指を立てて口の中で何事かを呟く。
魔法じゃない何か。
の最終手段。
「させない!!」
呪文の詠唱を止めようとオニオンが向ってくる。
は詠唱を終えるとふ、と息を吸った。
そして自分から近づいていった。
「杖で、太刀打ちできるの?」
「………」
キン、と金属通しがぶつかり合った。
力で言えばオニオンのほうが強い。
対峙を続けるとも危ない。
は一度彼を弾いた。
そして無謀にも彼に右手を伸ばしたのだ。
反射的にオニオンが一気に後ろに下がる。
の指先が彼の額に少し触れる程度だった。
両者の距離が開く。
オニオンは慌てた様子で額に触れた。
何も、なってない。
それなのに熱い。
「なに、し――」
「――今封魔師の名において契約を終了とする。
汝、契約終了までの全魔力の一切を封印する!」
「――!!」
封魔師。
魔を封印する。
オニオンはあー!と叫んだがむっとしながらも剣を構える。
機転が早い。
強いな、なんて思いながらもは杖を握り締めた。
戦闘はしばらく続いたそうな。
+
「早くこれ取ってよ!」
結果は引き分け。
魔力を封じて一切の魔法攻撃はなくしたものの忍者にジョブチェンジされたものだから
対応に戸惑ってしまったのだ。
苦手なタイプの近距離を残したのだから
の方が相変わらず分が悪いままだった。
彼女もわかっててやっているのだから、性格が悪い。
オニオンは若干不満そうにおでこを指差す。
そこには封印の印の魔方陣が小さくつけられてあった。
は若干不機嫌な彼に苦笑しながら「兜とって」とうながした。
そっぽを向きながらもオニオンは言われたとおりにしている。
… 封解 …
オニオンは額にやわらかい感触を感じた。
はっとして見てみると割りとすぐそばに彼女の顔がある。
(キスされた…!?)
そう頭が理解した時には彼の顔は見事に紅潮していた。
これで、機嫌直してね。
とが悪戯っぽく言う。
オニオンは動揺して口をつぐんだままだった。
おでこに残った熱がなかなか冷めない。
(ほ、他に方法はなかったの!?)(え、あったけど…早いし)(……っ、)