フリオニール・後編














 がんこ














「トラウマ…?」




バッツがたった今ジタンが言った言葉を繰り返した。


その言葉にジタンは頷く。


二人の戦いは既に始まっていた。




「俺もちゃんと本人から聞いたわけじゃないんだけど…


 昔は剣のほうが得意だったし、うまかったんだって。……長いこと、使ってたってさ」




剣の使用が何をさすのかはこの場の全員がわかることだ。


その相手がモンスターなのか、障害物なのか、はたまた人間なのか。


それだけは知る由はなかったが。


トラウマ、というなら、きっと……




「それなのに、彼女はジタンからダガーを……」


「恐らく相当な思いがあって、か…?」


「かもな」




弾かれた水が水面を離れて中をさまよう。


不安定な楕円形の水滴。


粒粒がきらめき、そして、再び水面へと帰っていく。


そんな様子に、見とれる暇なんてなかった。









 +









姿勢を低くして一気に踏み込む。


クラウドやスコールといった戦士よりは、ジタンやオニオンなどの


すばやい動きが特徴的だった。


魔導師特有の完全遠距離戦法かと思いきや思わぬ不覚。


軽い身のこなしですばやい攻撃を繰り出す様には慣れを感じる。


きっと。


戦いの経験が長いのだろう。


と、フリオニールは思わず思った。


複数の武器を装備するフリオニールだが、完全に


至近距離に迫られてしまってからは構える暇すらない。


否。


暇を与えないのだ。


フリオニールの脳裏から、女という言葉は消えていた。


最小限な動きで攻撃をかわし隙を見てこぶしを繰り出した。


初めての攻撃にはにぃ、と微笑み、余裕でそれをかわす。


一番驚いたのはかわすだけならまだしも、その勢いを利用して次に繋げたところだった。





瞬時にダガーを右手に持ち直し、左手でフリオニールの繰り出した右手首を握った。


当然勢いに乗っての左手は後ろへと引かれる。


体制を崩すのが関の山だと高をくくっていたがそれは大きな誤算だったようだ。


体制を崩したのも計算のうち。


あろうことかそのまま回し蹴りを繰り出してきたから驚きだ。


体を捻ってフリオニールの左肩を軽く蹴飛ばす。


空中でバック転をしながら1メートルはなれた場所に着地した。


身軽さ。


経験。


そして、それを実行する度胸。


は息1つ切らしてはいなかった。


フリオニールが右手を繰り出してから、約10秒ほど。


息を呑む一瞬であった。




「目、覚めた?」


「あぁ、おかげさまでな。どうやら…本気で行かなければ行けないようだ…」


「気づくの遅いって」




ふ、とフリオニールは笑った。


今までのキョドリ反応とはまったく違う普段彼が仲間に見せる反応、仕草。


はそれを求めていたのだ。


ようやく。


彼から仲間だと認められた気がした。




「…魔法は使わないのか?」


「へぇ、好戦的だな。使っても言い訳?」


「本気で来いといったのはお前だろ?」


「まぁね」




左手はダガー。


そして右手は魔法。


短い呪文詠唱の後、淡く光った。


風が吹き、桜色の髪を揺らす。


フリオニールの銀髪も揺れた。




「水泡よ、舞え――」


「――なんの騒ぎだ!」


「あちゃあ」


「………」




が緊張を一気に緩めてしかめっ面をする。


フリオニールに関しては額を抱えて黙り込んだ。


まさかのウォーリア登場。


そばで見ていたバッツ、ジタン、ティーダ、セシル、スコール…


そしてとフリオニールの二人を見据える。


自分の目で確かめる彼。


言い逃れできない状況だった。




見ていた5人の弁解のお陰か、


二人に対する罰は暫くの雑用ということで収まったらしい。









 +









パン。


と弾くと水滴が中を踊った。


そしてふわりと鼻腔をくすぐるのは甘い洗剤の香り。


真っ白になった衣服やタオルを、は今一人で干している。




「手伝うよ、


「…え、いいよ別に。フリオニールの罰はもう終わっただろ?」


「…それはお前が勝手に“誘ったのは自分”なんてバラしたからだろ?


 それがなかったら俺と同じ罰だったんだ」


「それも含めて。元の原因は僕だからいいんだって」


「……お前もホント頑固なやつだな」


「お互い様」




ウォーリアに言わなければ。


の雑用はとっくに終わっているはずだった。


しかしそれをさせなかったのはの中に残るほんの少しの罪悪感。


会話をしながらも作業を続けている


そんな彼女を横目にフリオニールは小さくため息をついた。


やれやれ。


という風だった。


そして黙って水気を残す洗濯物に手を伸ばす。




「…いいって言ってるのに」


「俺も頑固なんだろ?お前と一緒で」


「…。可愛くない」


「男が可愛いって言われてもうれしくないな……」


「ホンット、可愛くない…」




む、と口を尖らせる彼女。


ふい、と視線をそらして作業を続けた。




しばらくして。


予定よりも早い時間で作業を終わった。


真っ白な衣服が風に揺らいでいた。














(fin.)
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