ティーダ














 おもかげ














「何か言いたそうじゃねぇか」




自分に背を向けたままでジェクトが言う。


背後から不意打ちを狙われる恐れはないのだろうか。


それとも狙われていても確実にかわせる自信があるのか…


はたまたただの馬鹿なのか。


両手首の痛みをジェクトの向かう場所にたどり着くまでにできるだけ


使い物にしようと治癒する。


元々ケアル系統の魔法は傷をかき消す魔法じゃない。


自分の魔力を持って自己治癒力を高める。


ただそれだけのこと。


だからの魔力をもっても完全再生をしないのは


自身の治癒力が低下しているため。


ここを無理にでも処置して寿命を縮めるのならば、はこのままを選んだ。


痛みは引いた。


傷跡が残るくらい、死ぬよりはいい。


彼女なりの戦士の決意だった。




「だって、意味がわからない…」


「何が」


「僕を助ける理由が見当たらないって言ってるの。アンタ、きっと後悔するぜ?」


「後悔?んなもんはしねぇよ。俺が決めたことだ」


「だったら尚更だ」




意味がわからない。


ジェクトはただ単に戦いたいだけなのか?


それだけの理由のために、本当に敵を逃がすのか?


このまま逃げ去るかもしれないのに。


なら、それが出来るのに。


何が彼をそうさせた?


何が彼を動かした?


何が彼をそうするように思わせた?




「ちゃんとした理由がいんのか?…どーもその辺が俺は苦手みたいでよ」


「…、そもそも聞いてきたのはそっちの癖して」


「そういやそうだな」




豪快に笑う。


負傷して、さらには長時間の拘束のせいで体中がまだ本調子を取り戻していない彼女を


振り返ることはせずともゆっくりと歩きペースを合わせている。


掴みどころのない明るい性格。


誰かを連想させる。


あぁ。


そうか。


やっと気がついた。




「まぁ本音はきっちりさせてぇだけかもな」


「??」


「……お前と戦えば、その答えがでっかもしれねぇ気がすんだよ」




あくまで利用させてもらうためなのだ、と主張するジェクト。


そしてその後に「ま、堅苦しいは話はこの際なしとしようや」と乱暴に頭をかいた。


はジェクトの背中を見てこっそり口の端を持ち上げた。









 +








全員と合流し今は秩序の聖域の台座の前にいる。


クリスタルを手に戦士たちが集う。


残すはウォーリアのみ。


彼を到着を待つまでの間、少しだけ緊張を緩め戯れていた。


そんな中。


はティーダと話していた。


少し、深刻そうだった。




「親父が…助けた?」


「…うん」


「そんなの、でも…。……でも、に危害を加えたことには変わらないんだろ?」


「別にそんな…危害とかじゃ――」




は押し黙った。


言葉がのどで詰まる。


そして、飲み込んだ。


ティーダが拒むような表情をしていたせいだった。


宙で一度視線をさまよわせて、は少し俯く。


こういうとき。


気の利いた言葉が思いつかない。


空気が重たくなった。




「…ティーダは…ジェクトのことが嫌いなの?」


「――大ッ嫌いだ…!…あんなヤツ……」


「………、」




一瞬は自分の父親のことを思い出した。


眉間に僅かなしわが寄る。


震える唇が、そっか、と呟いた。


彼を見上げると再び彼の表情に困惑する。


それはなんともいえない感情が入り混じったものだった。


怒ってるわけでもない。


憾んでいる訳でもない。


ただ、哀しそうな顔。


はそっと手を伸ばして彼の頬を摘んだ。




「ごめん、もう言わない…から、」














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