ウォーリア














 ばらっど














何度も夢に見た


笑顔だらけの世界


皆笑っていて


君も笑っていた


それが当たり前で


とても満たされてた


夢が醒めた時に


僕は独りになった…




求めてた温もりは


何処か遠くにあって


何もない掌を


空にかざす


探してた愛情は


きっと近くにあって


僕の歌


どうか




君に届け…









 +









月の光を一層に引き立てる闇。


影が存在するのは、光のおかげ。


そして。


同じくして光が存在できるのも、影が存在してくれているから。


遠い昔、父に教えてもらったことだ。




光と闇は紙一重な存在。


光と闇は対局する存在。


だからこそ、惹かれあうのだ、と――




そう、たとえば。


薬が命を救うものだとする。


そして逆に。


毒が命を脅かすものだとする。


けれども薬と毒は紙一重。


薬も使い方次第では毒になるし、


反対に毒も薬となる。


ようは使う“存在”によって、そのものの価値は変わるのだろうと僕は思う。




光が正義だとは限らない。


かといって。


闇が悪だとは限らない。


そんなの。


くだらないことだ。


そんなの。


溝を作るだけだ。


だって。


そうやって区別したって。


刹那の自慰行為でしかないじゃないか。




は全てを愛でる子になって欲しいな』




父の言葉の意味を知ったのは最近のことだ。




ひんやりする風が心地よい。


熱気と湿気をもたないだけでこんなにも人を心地よくしてくれるのだろうか。


いつもの悪夢のせいで寝付けない彼女を落ち着かせてくれた。


秩序の聖域。


その台座のところにの姿はあった。


テントから少し離れていて、しかも今の時刻が誰もが寝静まった夜だというのだから


相手が誰であろうと見つかってしまえば心配するそぶりを見せるだろう。


…。


相手がウォーリアならばそれにプラスして説教が待っていそうだ。


そんなことを考える余裕もやっと出てきたところだった。




月明かりで桜色の髪をしっとりと照らし、


その唇は歌を奏でていた。


ゆっくりとしたリズム。


まるで子守唄のようなやさしい旋律。


容姿だけでは少年にも見えない童顔な彼女だが、


歌声をきけばそれは女のそれに間違いがなかった。


高く、細い声だ。


そのくせ耳に心地よくとおる。




ぷつん、とバラッドが途切れた。


正面から向かってくる存在に気がついたのだ。


次第に距離が縮み、それがウォーリアだということに気がつくと


はヤバイ、と咄嗟に逃げようとする。


しかし。


ウォーリアがそれを見逃すはずがない。


すぐさま彼女の首根っこの部分を鷲づかみにした。


だ。


言葉でもなんでもない密かな悲鳴が彼女からこぼれた。




「何故逃げる…」


「え、条件反射??」


「………」


「あーもう、逃げないから手、はずしてよ!髪引っ張ってるんだって!」


「…あぁ、すまない」




ブレないウォーリア。


悪意のかけらもないものだから先にのほうが折れた。


無造作に掴んだものだからリボンが少し解けて髪が乱れている。


は面倒くさそうにリボンを解いた。


さらり、となびく。


一瞬視線を奪われるもの。




「………」


「………何だよ」




あまりにじろりと見るものだから気になって仕方がないは無愛想に言い放つ。


夜中はモンスターが多いため、外に出ることは禁止されているのだが、


こうしてはときたまにそれを破り抜け出している。


それがバレた身なのでこれが最大の抵抗だといえよう。


ウォーリアは彼女に言われてもなお視線をそらすことなく、


それどころか穏やかに微笑んだ。


はじめてみた彼の気を緩めた表情。


心からは驚いていた。




「君も、笑えたんだな…」


「?…歌の続きのことか?」


「……。なんでもない」




続きの歌詞の事だと勘違いしたウォーリア。


少し鈍い彼の推理にあえて言及するまいとは口をつぐんだ。


何よりはじめてみた君の笑顔が嬉しかったから。




「――さて、罰は何にするか…」


「…え゛」




生憎見逃す気のないウォーリアは顎に手を触れた。


伏せがちの瞳で遠くを見つめながら思慮すると「では、」と前振った。


は諦めたように言葉を待っている。




「――続きを唄ってもらおうか」




そっと髪に触れて言った。














(補足・冒頭の詩は高杉さと美さんの「旅人」のリズムだったり…) inserted by FC2 system