ティナ(ジタン落ち)















 かがみ















鏡。


姿を映し出すもの。


自分自身を。




「………」




それとも。









 +









『早く、この戦いが終わればいい。そうすれば……』




兄さんは何より平和を望んでいた。


戦いを好まないのは僕も同じ。


争いは争いしか生まない。


感情に恵まれた人間は、争いを生み出す凶器となった。


魔大戦が生んだ悲劇。


それがいい例だ。


こんな風に批判する自分たちもまた、半分人間。




『僕たちは』




――僕たちは




『きっとね』




――きっと、




『幸せを願っても』




いいんだよ。









涙が溜まる。


視界が歪んですぐに晴れた。


しずくが頬に流れて行った。




「……?」




ティナの声。


思わずはっとなって涙を拭い彼女に背を向けた。


鏡からも、目をそらした。




「……。また、お兄さんに会ってたの?」




鏡の中の自分。


つまりは兄さん。


ミラーツインの双子なのだから鏡に映った自分こそは彼なのだ。


ティナはその事を知っている。


背を向けたまま返事を返さない彼女。


細い肩。


華奢な腕。


指先。


少し前までは剣を絡めていた指。


こんな少女が、何を背負っているのだろう。


抱えているのだろう。


わからない。




が……泣いているわ」


「…え?」


「ほら、」




鏡を指す。


の褐色が自分を映す。


泣いてる。


が。


兄さんが。


違う。


鏡に映った、自分が。


だって兄さんは、もう。




「きっと…ううん。貴方が泣いているから、困ってるんだわ。優しい、人だから」


「しってる、」


「…そうね、誰よりも一番……わかってるはずだものね?」




うん。


知ってる。


兄さんは人の幸せを望んでいた。


それが自分の幸せなのだと。


口癖のようにしていっていた。


一番近くにいた自分が、一番知ってる。


忘れない。


忘れてない。


ちゃんと、覚えてるよ?




「ごめん、兄さん……ティナも。疲れちゃってるんだね」


「……。そうね、最近は戦いが続いているから。もう眠ったほうがいいわ


 貴方に何かあるとも、私も…仲間も……皆心配するから」




うん。




小さく頷いては最後に鏡に触れた。


冷たい鉄の感触。


鏡越しの貴方。


また、頑張るから。


ひとつ、また決意を残した。










 +









「ほら、起きろよージタン。バッツ。朝だぜ?」




時刻で言うと8時の少し前。


ただ時計がないから正確なものはいえないが。


とにかくは二人を起こす。


一番寝相と寝起きが悪い彼らを起こすのは


一番面倒見のいい彼女の仕事になってしまった。


バッツの腕を持ち上げて無理やり上半身だけ起こす。


ジタンに関しては肩をゆすった。




「…ん、おはようのちゅうしてくれたら起き――」


「ほら、さっさとおきなよ」




拍子抜けするジタン。


え。


と思わず零す。


目がぱちりと覚めてしまった。


すたすたとは部屋を出て行く。


朝食できてるよ、と最後に零して。


が消えてからも扉をじっと見つめてあっけらかんと。


あれ?


まだ寝ぼけているのかもしれない。




「アイツ。今日は機嫌いいのなー」




ふぁあ。とあくびを零しながらバッツが起きる。


その言葉でさっき感触が確かなものだと実感した。














inserted by FC2 system