ジタン














 ごほうび













… フレア …




手加減なしの攻撃が続く。


戦略タイプかとたかをくくっていれば大きな誤算だっただろう。


相手は完全に理性を失い猛攻タイプと化している。


キ、と睨むように細められた瞳は少し虚ろげだった。




「くっ…!ティーダ!クラウド!無事か?」




壁を蹴りあげ、相手からの攻撃をかわしながらジタンが言った。


空中で一度回転して姿勢を整え、すぐさま視界を滑らせて二人を捜す。


カプセルの奥には大剣でガードしていたクラウド、


そしてジタンよりさらに上の位置まで回避しているティーダを見つけ、


双方の無事を知るとジタンはほっとして見せた。




先ほどから威力の強い魔法攻撃が続いている。


相手のどこにそんな余裕があるのだろうか。


どこに、そんな魔力が……


容赦なしの連続攻撃にティーダとクラウドはやりづらそうだった。


例えるなら手足の伸ばせない状態。


得意な近距離攻撃も近づけなければ当てられない。


ティーダのスフィアシュートなど遠距離に対応した技もあることはあるが


向こうだって対応する技の一つくらいは兼ね備えているものだ。


コスモス勢一…それこそシャントットにさえも匹敵するほどの


魔法の知識・技術・そして魔力を内に秘めているのだから、あなどれない。


油断すれば確実に致命傷を負う。


それほどに厄介な相手だった。


…もうひとつ、ジタンを悩ませる理由があった。


そうこうしているうちに“彼女”はまた詠唱を始める。




「……またくるぞ!」


「ちょ、どーするんだよ!ジタン」


「んな事――」




ジタンはぐ、と押し黙った。


術がない、というわけではない。


否、逆を言えば術はあるのだ。


ただ、実行できないだけで。




「ジタンができないって言うんならオレがやるっすよ?」


「それは…」


「…おまえの気持もわからなくもないが」


「………」


「でも、あのままじゃの方がまいるって…」




ティーダの呟きが轟音でかき消えた。


けれどもジタンの耳には届いたらしく黙ったまま顔を険しくさせた。


今度はクエイクだった。


大地が震えて足元がおぼつかない。


三人はいったん空中へと逃げてジタンの決断をまった。




そう。


今三人と戦っているのはティーダの言葉にもあったがだ。


アルティメットとの対戦中にあろうことか混乱系の魔法に触れてしまったらしい。


異常効果回避のリボンの装着していればまだよかったが、


戦闘中に解けてしまうというハプニングも重なりこんな状態に陥ってしまった。


その瞬間からの自我は失われ、本来味方である自分たちに奇襲をかけている。


“ ……あのままではの方がまいる ”


ジタンはあれだけ魔法を乱用する彼女は見たことなかった。


それはがその都度微調整しながら力をセーブしてきていたからだろう。


なのに理性が飛んだ今はそれが出来ていない。


早く元に戻さなければ。


ジタンだって頭では理解できているという事を知りティーダはそれ以上言わなかった。


ぎり、と奥歯をかみしめる。




「はぁ…レディを殴るなんて絶対にしたくなかったんだけど……


 …、泣かせるなんてことはもっとできないからな……よし、いっちょやるか!」


「!」


「決まりだな!」


「時間稼ぎ、頼むぜ!」




そういってダガーを手放して両手をフリーにさせた。


混乱の治し方というものは皮肉にもどの世界でも共通のことらしい。


衝撃を与えればいい。


そう、正気を取り戻す程度の、衝撃を。




… ファイラ …




クラウドが足止め重視の魔法を繰り出す。


威力はさほどないが数段を一度に打ち込んだのでは一瞬わずかに動きが止まり


次にはそれに対応するべく水属性のフラッドをすぐさま放った。


待ってましたと言わんばかりにティーダが飛び込んで


得意のブリッツボールで気をそらす。


水泡の壁という死角を突いてきた攻撃にの意識はそれへと向けられる。


注意はそれた。


そうだ。


あとは――…









 +









「あったぞ」




テントの中に顔をのぞかせながらクラウドが言った。


隣からは見張りを任されていたティーダも一緒に中の様子をのぞいている。


テントの中にはだいぶ消沈し、尻尾をしゅんとさせながらじっと


見つめているジタンの姿がまず第一に目に入った。


その視線の先には少し疲れた様子で静かに寝息を立てるがいる。


二人の視線にやっと気がついたのかジタンははっとなって愛想笑いをしてみせた。




「あぁ、サンキュ。……っと、これ相当ボロボロになってんのな」


「カプセルの破片に引っ掛かってたんだ。叩きつけられた時に外れたんだろう」


「あの時か」




一瞬その時の事を想像してほう、と息を吐いた。


手の中にある彼女愛用のリボンはずいぶん昔から使っているように見える。


彼女は自分の持ち物が少ない分、物を大切にする方なのだ。




「リボン、プレゼントしたら、喜ぶかな…」


「お、それ名案!」


「…喜ぶだろうな」




はじめは照れ隠しできっと何か言うだろうとティーダはけたけた笑う。


それでもなんだかんだいって大切に使うのが彼女だ。


それが容易に想像できて三人は声を押し殺して笑い声をあげた。


一通り腹を抱えて笑った後でジタンはそっと目を細めながら桜色の髪を撫でた。


きれいな桜色の髪。


この髪に合う色は……














(赤、黄色、深緑…どれも似合いそうだな…)(ここはやっぱり深緑?) inserted by FC2 system