ティーダ・「だって」の続き














 かえろ














コテージを出て外の冷たい空気を肌に感じつつ、彼女を目で追った。


彼女がはき捨てるような台詞を言ってから


まだ数分ほどしかたっていないというのに彼女の姿は何処にも見当たらない。


自分ほどではないが、もともと足は速いほうの彼女。


もしかしたらずっと遠くへ…?


そんな思考が脳裏をよぎり、ティーダは首を振って全面否定した。


彼女の事だ。


つまらない意地でも張って帰ってこないなんてこともあるかもしれない。


しかもその原因が自分にあるのならなおさらそんな事態は避けたい。


大切な戦士が減るのが嫌なわけではない。


仲間がいなくなるのが、嫌なんだ。




「どこだよ…」




じわりと熱くなる目頭を無理やり押さえつけてティーダは走り出した。









 +









自己嫌悪中のはがれきの搭のカプセルの蔭にいた。


とりあえず最初にいた場所から遠いわけでもなく


かといって近い場所でもないこの場所にふらふらと足を止めたものの


さて、これからどうしようか、とは頭を抱えている。




(大人気なかったかな…)




膝を抱えて座って顔を埋める。


桜色の髪がさらりと流れて表情を覆い隠した。


髪の中でため息が一つ。




『――僕と兄さんを繋ぐ為だよ』


『――へ!?』


『もう二度と会えなくても!僕がこう言ってりゃあ近くに感じられるだろッ!!』


『――――』




何度も繰り返されるのは先ほどの光景。


その後フリオニールが自分に何か言った気はするが


何を言ったのかは思い出せなかった。


あの時は…否、今だって頭の中には


この光景のループが延々と流れ続けている。




ティーダに言った事は嘘ではない。


最後の肉親だった双子の兄と


“さよなら”をして、もう一年ほどたつのだろうか。


忘れもしないあの日。


ケフカとの最終決戦の後。


帝国に属していた頃に植えつけられた


体内に残留する闇の力を丸ごと吸い取って、魔石たちとともにきえさったのだ。


怯えたような笑顔で、消えていった。




どうしてあの時僕は、彼を救う事ができなかったのだろう。


どうして、手放してしまったんだろう。


逝かせてしまったのだろう。


方法なら他にもあったかもしれないのに。


なくても――見つけるのに。


彼が犠牲になる必要なんて、どこにもなかったのに。




(ずっと見なかったのにな……兄さんの夢)




夢のせいだ、きっと。


こんなにも神経質になってしまうのは。


兄に対して敏感になってしまうのは。


過剰になってしまうのは。


胸の中でとぐろをまくこの感情を僕はティーダに――




「――見つけた」


「!」




聞き親しんだ声に我に返り身体を強張らせた。


や、と口から漏らしながら腕だけで拒絶しようとすると


その腕を捕らえられて逃げ場を失ってしまう。


ティーダの瞳に当てられての抵抗はすぐに収まった。


決して強くは握られてはいなかった手が解かれる。




「心配した……」


「……」




そこで言葉が途切れる。


会話がなくなり互いに沈黙が続いた。


すでに逃げる気力を失ったがおそるおそる


彼を見上げると、その表情に再度困惑した。


俯き、唇を結び、眉を寄せている彼。


目を奪われるもの。




「ティーダ…」




が静かに呼んだ。


様子を伺うようにそっと。


そして彼の頬に手を触れて見上げる。




「帰ろっか」




ごめんねは、言わない。


それだけは譲らないから。














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