オニオン(会って間もないころ)














 こども














「僕に何か用?」




短い言葉が厳しさを強調させる。


けれどもその反面口調は穏やかなもので、


微笑むその表情には安堵すら覚えさせるものがあった。


それは自分とて同じ。


常日頃何らかの目的を持って行動している彼が


何の理由も断りもなく彼女の傍に突っ立ていたのだから


少しくらいは戸惑う素振りを見せるかと思ったのに、そんなものは微塵もなかった。


ただ、落ち着いていて。


傍にいるものまで丸い気持ちにさせる。


年上だという事を実感する事ができる。


これがきっと、安心と言うものなんだ。


ティナが彼女の前だけは普段は見せないような表情を見せるのも


悔しいがなんとなくわかる気がした。




(それが、羨ましいなんて)




だってまだ僕は子供だから。


突然の事に戸惑いが隠せ切れない。


それが、周りにいるティナまで不安にさせてしまう事だってつながるのに。


不安にさせたくないのに。


僕は――




「ティナなら今頃部屋で休んでるはずだよ」


「…知ってるけど」




つい無愛想になってしまう。


ガキ、ガキ、ガキ…


こんなのただの八つ当たり。




「…てっきりティナの居場所が聞きたいんだと思ってた」


「僕はただ、と話をしたかっただけだけど?」


「え、僕と?」


「僕とは話せないわけ?」




そんなことないよ、とは笑った。


余裕がにじみ出ている笑い方。


気に入らないんじゃない。


ただ自分にはないものだから、悔しいだけ。


どうせない物強請り。




「こっちおいでよ」


「……」




とん、と隣のソファーを叩く。


ずっと立ちっぱなしだったから気遣ってくれたようだった。


僕は言われたままにその場所に座る。


初めて間近で彼女表情を見れて、すこし緊張してしまう。


…なんだ。


二十歳って言う年齢の割には、全然子供っぽく見えるじゃないか。




「僕が一人になるの、ずっと待ってたんだもんね?」


「――」


「なかなか気付けなくってごめんね?」




褐色の瞳が優しげに自分を見ている。


小首を傾げると長い桜色が揺れた。


珍しい髪色のそれについつい目を奪われてしまう。


嘘が言えなくなる。


でも、不思議と嫌な感じはしない。




「…うん」




僕は素直に認めることにした。


はくすりと微笑んでココアを二人分用意する。


ほかほかと湯気の立つそれが手渡され手の平から温かい温度が伝わってきた。




「話したいこと、本当はいっぱいあったんだけど……やっぱり今はいいや」


「そう?ならまた今度だね」


「……でも一つだけ」


「ん?」




悔しい、けど。


今は気分がいいから言ってあげるよ。


だけど。


2回は絶対言ってあげないから――




「 のこと、嫌いじゃないよ 」









やっぱり彼女は笑った。














(知ってるよ、って笑ったんだ……) inserted by FC2 system