ジタン















 よばい















へへ。




音として出さないように気をつけながら彼は笑った。


重心がぐらつかないように右手で床を押さえる。


それから静かに息を吐いて息を整えた。




完全に夜が世界を支配した。


人口灯を消してしまえば世界をぬらす光源は二つの月のみになる。


ちなみに明かりのついていないこの部屋は暗い。


もっと言えばこの部屋の主は只今睡眠中だ。


仲間たちの中でも割と遅い時間帯に眠る彼女。


遅い時間になるというのはバッツやクラウドと酒を嗜むなどして


落ち着いた時間をすごしているせいだ。


まだまだ10代であるティナ、オニオン、スコール、ティーダたちが眠った頃を


差計らうようにして。


その10代ズの中にジタンもいた。


そして。


この……の寝室にも同じく彼の姿はあった。




時間にしてみれば2時ごろ。


最近寝つきが悪いらしいがようやく眠った時間がその頃だったのだ。


眠ったといっても浅いもの。


夢見が悪くて最近は魘されているの。


というティナからの情報が今回の“夜這い”……


…もとい様子見のきっかけとなったのは言うまでもないだろう。


何よりも行動派なジタン。


持ち前の盗賊の技術をこういうときに使わないでいつ使う。


足音を殺しつつもの寝床に忍び寄る。


尻尾がふにゃふにゃと揺れていた。




(一応眠れてはいるようだな)




ベットのそばに膝をつくようにして座り、ジタンは彼女を覗き込む。


職業柄か目はすぐになれた。


(恥かしがるせいで)なかなか近くでは見れないものだから、


結っていない癖のない桜色の髪。


薄く開いた唇。


伏せられた瞼。


長い睫。


息遣い。


今しかない、といわんばかりにじっと見つめた。


思わずごくりと生唾を飲み込む。


それくらい、緊張した。


実際にはただ寝顔を盗み見ているだけなのに……




「……ん…」


(……!!)




かすかに身じろいだ彼女。


視線を感じたからだろうか。


彼女は少しだけいやいやをした。


思わず少しだけ頭を下げるようにして身を伏せたジタン。


彼女が落ち着いた頃恐る恐る覗き込む。


そしてさっきとは違う異変に気がついた。




(夢のせい、か……)




ティナがポツリと零した事。


口止めされていたことらしくティナは迂闊に漏らしてしまった事を後悔していた気がする。


一番長い間共にいた友達同士。


言ってしまえば親戚関係。


同性同士ということもあってモ彼女には話しやすいようだった。




(………)




何かと、戦っているようだった。


それが何なのかジタンにはわからない。


敵なのか、偶像なのか、それとも自分自身か。


知る由もない。


じゃあ。


彼女のために。


俺は。


何が出来るだろう。




そう考えた時、ジタンは彼女の手を握っていた。


握るというより上にかぶせるといったもの。


そしてほんのり汗ばむ額を優しく撫でた。


ほんの少しだけ、の表情が柔らかくなり、


ジタンはそれだけで安堵の息を零した。


ぐ、と彼女が瞼を強くつぶる。


あぁ、時期に目が覚めるだろう。


ジタンは仕方ねーか。


と半ば観念したようにしながら、額を撫でていた。


褐色の瞳が彼を映した。




「……ジ、タン?…あれ、なんでここに?」


「え、夜這い??」


「………」


「………」




おっとりとしていた彼女の表情が急に険しくなる。


如何わしいものを見るような目でジタンを見る。


ジタンは思わず苦笑しながらも悪びれた様子はない。




「で、夜這いのほうは失敗に終わったわけか」


「んにゃ?ある意味成功?」


「………」




怪訝そうな目。


何しやがった。


と問い詰めている瞳。


ジタンは宥めるように頭を撫でてやった。


そして可愛い寝顔だったぜ、といってやると面白いくらいには照れた。


なっ。


と言いよどむ彼女があまりにも可愛くて。


にやりと笑った。




「って、何時までいるんだよ。見つかったんだからさっさと帰れよな!てか帰れ」


「まぁまぁまぁ、そう言わずに…」


「え、ちょっ……何勝手に人のベッドはいってきてんだよ!あーもう、抱きつくなぁ!」


「ん、柔らか」




ゴツン、と気持ちのいい音がした。


そのままジタンは眠りについたとさ。


ハートマーク。




こんな時間まで起きていた彼。


あっさりとそのまま眠ってしまった。


一番たちが悪いのは眠ってもの腰から腕を放さなかった事だろう。


は露骨に怪訝と照れの入り混じった表情をした。


それでも仕方がないから自分もベッドの中に納まる。




(やっぱ、心配……させてたんだろうなぁ)




何気なく目に留まった金髪を撫でてみると意外にもさらさらしていて気持ちよかった。


ヘヘ。


小さくジタンが笑い声を零した。









その晩。


がそれ以上悪夢に魘される事はなかったとさ。














(……枕持参して何しようとしてやがる)(もう、照れんなよ!)(照れてないッ!) inserted by FC2 system