オニオン(一部ジタン)















 けつい















―― 守るって、言ってくれたの




ふんわりと微笑みながら言うものだから、


その時の映像が脳裏に焼きついてしまったらしい。


目を閉じた瞼の裏に染み付いてはがれない。




浅い眠りの後の目覚め。


このところ眠りが浅い。


時折(半ば強引に)ジタンが来て一緒に眠ってくれるから


その時だけは悪夢を見ないで済んだ。


否。


見てもすぐに起こしてくれる。


もちろんジタンが。




窮屈で、冷たくて、心細くなる夢。


必死に繋ぎとめようともがくのにその指先は彼には届かない。


広がる距離。


深まる溝。


声を上げても届かなくって。


どうしようもなくなった時。


最後の力で伸ばした手を、彼は掴んでくれた。


そこで、目が覚める。




彼が自分の手を握っている。


夜はまだ明けていない。


ジタンはじっと真面目な顔をして見つめて僕の混乱が収まるまでちゃんと待ってくれる。


動悸がおさまり、酸素が脳に回るようになると少しずつ頭が外気に冷やされていった。


そして今までの情景が全て夢だった事を知ると、


やっとジタンにぎこちない微笑を見せて震える声で「ごめん」と謝る。


すると彼はやっとにやりとしてから




「大丈夫」




というのだ。


自分が見ている夢の内容を彼は知らない。


聞かない。


けれど、大丈夫だと。


ここに俺はいるよ、と。


優しく言ってくれるのだ。


そして何時もの様に腰の所に腕を回す。


ぎゅ、と抱きつくとそのまま眠ってしまう。


胸に宿る暖かいものをそっと愛でるように。


はそっと息を吐いた。


腕の中からは早くも寝息が聞こえてくる。


眠かったのに。


疲れてるのに。


起こしてごめんね。


そんな事を言うと彼は軽い素振りで「気にすんなって」と口にするのだろう。


僕は彼に何を返せているのだろう。




いつの日か。


そんなことばかり考えるようになっていた。









 +









日が昇る前の静けさ。


鼻腔をくすぐる朝の冷気。


風。


それらはとてもひんやりしたものなのに、あの夢とは違う爽快感があった。


さっぱりとした気分だった。


寝起きとは思えないほど。


頭もさえている。


久々の目覚めのよい朝だ。


ジタンを置いてふらふらと寝室を抜け出してきた


疲れているようだったから抜け出した事に、気付いてない…とおもう。多分。


とりあえず朝食ができたら起こしに行こう。


そんな事を頭の端に考えていると、ふと視界によぎった仲間に足を止めた。


遠めだけどもわかる。


オニオンナイトだ。




―― 守るって、言ってくれたの




ティナの言葉が一瞬脳を掠める。


視線に気がついたのかオニオンもこちらを見つめかえした。




「おはよ。今日は早いな」


「おはよ…そういうもいつもより少し早いんじゃない?眠れてる?」


「大丈夫、最近は割と安定してる」


「……安定?」


「そ、安定」




何の事か、と聞いたのに思った言葉が返ってこずに


オニオンは露骨につまらなそうにした。


は彼の隣に腰を下ろした。


少しずつ。


世界が光に濡らされていく。




「ねぇ、これ聞いていいかわからないんだけど。聞いてもいい?」


「…?答えられる範囲ならいいよ」




どうぞ。


と彼を促す。


尋ねずらい内容なのか彼は一瞬躊躇った。




「ティナが言ってたんだ。は昔……


 今みたいに杖じゃなくてずっと剣を使ってたって」


「そうだよ」


「強かったって聞いたよ。……それなのにどうして剣を捨てたの?」


「……」




は少し間を空けた。


薄く唇を開けて、思慮している。




「――決意のためじゃないかな」


「決意?」


「そう。大切なものを守れるように、失くさないように。剣だと…傷つける事しかできない」


「……」


「別に剣を持っているものは人を傷つけるって言ってるわけじゃない。


 ただ僕は……人を傷つける方法しか知らない、から。


 だから君は、オニオンは…その剣で守りたいものを守ればいい」




脳裏によぎるティナの笑顔。


戦いの合間に見せた微笑。


消えてしまいそうで、はかない。


「守るから」


その言葉は決して偽りではない。


オニオンはうん、と頷いた。


はふわりと微笑んで立ち上がった。


そしてテントのほうへと歩き出す。


背中にオニオンからの疑問符を受けてはそれに答えた。




「朝食、作ってくるね。お腹空いたでしょ?」


「あ。なんか手伝える事ある?」


「え…手伝ってくれるの?」


「あのねぇ、僕だって手伝うくらいは出来るんだけど?」




馬鹿にしてるの?


と語尾に聞こえてきそうな物言いだ。


ひょこひょこと後を歩いてくる。




「ううん、そうじゃなくって……一人で作るつもりだったからさ。嬉しかっただけだよ」


「……。…そういうの、さらっと言うよね、って(ボソ)」


「え??」


「なんでもない。ほら、早く行こうよ!」




腕を引いてぐいぐいと引っ張る。


少しだけ困惑しながらもは胸が温かくなるのを感じていた。














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