きみと、 10
君の世界を覗いた。
まるで鏡の中を覗くように容易くて。
鏡が自分を映し出すようにあっさりと其れは僕の脳裏に掲示された。
喜び。
世界。
平和。
過去。
考え。
絶望。
思い。
悩み。
願い。
現在。
予想。
言葉。
不安。
希望。
未来。
笑顔。
彼女の意識に触れる。
一気に流れ込んでくる情報たち。
殆どが自分と共有していない記憶ばかり。
それはそうだ。
だって僕たちは。
お互い隔離された世界で生きてきた。
別々の個室に分けられて、顔を合わせる事どころか声を聞くことさえ稀だった。
長い時間ずっと、孤立させられていた。
それでも僕たちは。
信じ続けたじゃないか。
僕たちはすぐそばにいる。
壁に区切られたところでそれは何の意味も持たない。
身近に感じる事ができる。
そばにいる。
だから、怖くないよ。
僕の手には何も無いけど。
君のぬくもりを覚えているよ。
忘れないよ。
これからもずっと。
それは永久へと続けていくよ。
未来へとつなげるよ。
その中に。
君も。
君も、ちゃんといるよ。
君と、
未来をいきるよ。
(僕は……)
彼女の意識に嘘偽りは無い。
語られる言葉たちは真実。
本来あけてはいけない彼女の記憶の引き出しを、自分はあけた。
そこで見た記憶の情景は直接の脳裏へと焼きついた。
想いが交差する。
(君の思いを踏みにじった……)
また涙が落ちそうになる。
この感情はきっと自分の中からあふれ出しているもの。
カオスの力が弱まっている。
カオスが。
揺らぎつつある自分を見放そうとしている。
(でも僕は)
裏切れない。
裏切りは死を意味する。
あの時自分は死んだ身。
その命を繋いでいるのはカオスの力だ。
(その前に――)
引き出しを閉めた。
+
(あーヤバイ…これってすっごくヤバイ……)
地に降り立ちまだまだ回復しきれていない体を壁に待たれかかるようにさせる。
少しでも体を休めたいと思うが敵の気配だって完全に消えたわけではない。
ここで無防備に眠ってしまったもんなら、敵の敵襲にあって一発でアウトだ。
ジタンがいただけで、すっごく安心できたのに。
一人はやっぱり不安で仕方がない。
早く合流したい。
はため息をついてからあたりを見渡した。
そして、項垂れる。
「………魔法使い過ぎた…」
思わず苦笑。
ヤバイ。
馬鹿すぎる。
ここまできて魔法の充電切れですか。
はは。
思わず自嘲の笑みをこぼした。
拘束を解いてもらい、戦いに勝利しテレポで彼の場所までとんだ。
…そこまではよかった。
が、だ。
あろうことか途中で放り出されてしまったようだ。
あたりに彼の気配どころか人っ子一人見当たらない。
放り出された場所がモンスターの群れの中でなかっただけまだ幸いだったが
こんな偏狭の地に魔法も使えずに一人ぼっちというのはなかなか厳しいことだった。
(こんなときに限ってエーテルきれてるし)
最悪なことは重なるものだ。
「しょうがない…魔力は回復するまで待つとして……それまで歩くかな」
気配はある。
気の遠くなりそうな遠くに、ではあるが。
向こうだって移動しているだろう。
果たして追いつくことはできるのだろうか。
そんな絶望の崖っぷちに立たされているにぴり、とした反応があった。
は仏頂面をする。
そして背後を面倒くさそうに振り返った。
あぁ、最悪。
モンスターだ。
自分の姿を見つけるなり本能のまま攻撃しようとしてくる。
「ふざけんなよ?」
とりあえず杖は構える。
けれど、肝心な魔法は使えない。
イコール、無意味。
けれども丸腰よりはいいだろうという判断だった。
うまく巻けるかな、なんて思ったとき背後からさらに2体が自分を捉えたようだった。
弱っている自分を見てチャンスとでも思ったのだろうか。
こっちは丸腰同然なんだけど…
意を決したように身構えたとき、すぐそばで魔法詠唱の声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
そしてその後に続く少年の声。
… トルネド …
… 導きの剣閃 …
自分を取り囲んでたモンスターが一瞬にして消し飛んだ。
そして入れ替わりに二人の仲間が降り立つ。
ティナとオニオンナイトだった。
「あ、ティナとオニオンだ。どうしてこんなところに?」
「こそ…如何してここに……」
「……そもそも、その前に言うことがあるんじゃない?」
オニオンはを促した。
はあ、とこぼして思い出したことを口に出す。
「エーテル恵んで」
「…………あのねぇ」
オニオンは思わずあきれてため息をついた。