きみと、 12














スコールも、ジタンも。


それぞれが強敵相手に戦いをはじめた。


広い空間を大いに利用して、または自分のスタイルをうまく合わせながら戦っている。


時折金属通しがはじけあうような音が聞こえてくる。


そんな音を耳にしながら二人はお互いに視線をそらさずに戦っていた。


いままで離れていた分しっかりと焼き付けているような感じだった。




「高いところ、駄目だったんじゃないの?」


「それは兄さんも同じでしょ。“あの日”、“あれ”を僕たちは一緒に見ていたじゃない」


「そんなもの忘れたね」


「嘘吐き。覚えてるから、僕から目をそらしたんでしょ」




お互いに声は優しいもの。


会話自体は普通の兄弟か交わすようなものばかりだった。


まさか互いに武器を構え、戦っている最中のせりふとは思えない。


兄は剣を。


妹は杖を。


魔法の時折炸裂する。




「怖いから、逃げるの?」


「逃げることは卑怯だとは思わない」


「別に言ってない。好奇心で聞いてるだけ」




言葉が短くなっていく。


だんだんと相手の攻撃が様子見じゃなくなってきているから。


それに、時間をかけるにつれて高さという恐怖が波のように押し寄せてきているから。


アルティミシア城内部の螺旋階段。


その最上部にいる彼ら。


落ちればどんな頑丈な鱗を持ったドラゴンでさえも助からないことは明白だった。




「もう、遅いんだよ!!何もかも全部!手遅れなんだ…ッ!!」


「――!」




… アルテマ …




本音の後の究極魔法。


は双方に驚きをあらわにした。


巨大なアルテマは虚空の闇さえも振り払う無の力。


は歯を食いしばり自らもアルテマを繰り出した。




「ずっと一人で戦ってたんだね」




中央で衝突する双方の究極。


魔力では、のほうが勝っている。


しかし繰り出すのが遅かった。


それに。


の体はすでに臨界点をこえていた。


双方の魔法はひとつに融合し時期にかき消された。


キン。


はじける音がした。


光が一瞬波紋のように中心から広がった。


あまりに突然のことで目がくらんだ。


腕で目を覆い隠しては思わず「わ」と声をこぼした。




“  ごめんね  ”




頭の隅で声が聞こえた。


脳に響く声。


は目を見開いた。


血が騒ぐ。


脈を打つ。


背中に悪寒が伝って脳へと届く。


それは最悪の終末。




「―――ッ」




視界の隅に彼女が見えた。


いや、彼女の手がだ。


すぐにそれは消えた。


下へと。


落ちた。




誰が?


彼女が。


誰が?


が。


誰が?




大切な、妹が。









――ッ!!!」









懸命に伸ばした指先。


お願い。


お願い。


どうか届いて。


お願い。


守りたいんだ。


助けたいんだ。




大切な。


たった一人の妹なんだ。









『 僕の手には何も無いけど 』




『 君のぬくもりを覚えているよ 』




『 忘れないよ 』




『 ――僕は 』




『  君と、未来をいきるよ  』









届け――









 +









“あの日”から僕たちは高い場所が駄目になった。




多分一生忘れることのできない出来事。


一生に一度の過ち。


トラウマ。


両親の残酷な死。


殺された。




――誰に?


帝国に。




――どうして?


裏切ったんだ。


僕たちが。


二人であの晩逃げ出そうとした。


束縛する牢屋から。


人間の柵(しがらみ)から。


何もかも全部から。




――どうして裏切ったの?


外の世界を見てみたかったんだ。


大空を見上げて見たかったんだ。


こんな小さな四角い空じゃなくて。


どこを見上げても無限に広がる大空を。




自由になりたかったんだ。


こんなところで。


終わりたくなかったんだ。




ただ、それだけだったんだよ。




ねぇ。


君もそうだったんでしょ。


二人で空を見たかったんだよね。


自由になりたかったんだよね。


人間を恨んだり、憎んだりなんて。


ましてや復讐しようだなんて。


微塵も考えてなかったんだよね。




僕もそうだったよ。




今でも。


風の音を聞くと“あの日”を思い出す。


高い場所だった。


丘の上。


ビュウビュウなる風が酷くうるさかった。


全部の音がかき消されてしまうくらい。


風の音だけが耳に残ってしみこんで、剥がれない。




落ちそうだから、怖いわけじゃない。


そんなの言い訳。


口実。




本当は。


すべてをなくしてきた場所だから怖いんだ。


大切なものを作っては守れずに失う。


自分の無力さに絶望する。




風の音はそれを鮮明に思い出させようとするから。




もう大丈夫だよ、


君は絶対に落とさないよ。


なにがあってもその手をつかんでみせる。




僕が、掴んで見せるから――














ほら、もう大丈夫。














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