きみと、 13














地を蹴り身を投げ出したお陰もあって浮遊力を引力を全身に受けている


彼女と同じ桜色の髪がが上へと舞い上がる。


の視線は下へとあった。


段々と近づいていっている床。


正面衝突すれば意味がない。


左腕に抱いた彼女はすでに気を失っている。


彼女の髪もまた宙を踊っていた。


はぐ、と唇をかみ締めてソードを握り締めた。


そして逆手に持ち壁に突き立てる。




(――くっ!)




勢いは緩むけれどもとまらない。


ガガガガッ。


と剣が持っていかれそうになる。


右手がしびれる。


思わず顔をしかめた。




「掴まれ!!」


「…!」




少し下のところから顔を出して必死に手を伸ばすジタン。


ガーランドとの戦いが終わり駆けつけたのだろう。


はソードを手放してその手をジタンへと伸ばした。


バシ。


鈍い音がしてお互いの手首を握ることに成功する。


しかし。




「うお!」


「え、ちょ…っ!」




少し重かったようだ(え、少し?…これが? Byジタン)。


ジタンまでもが宙に放り出されそうになる。


しかしジタンは捕まえている手を緩めなかった。


空いているもう片方の手を諦めずに上へとさし伸ばすジタン。


何かにつかまるために伸ばした手を、今度はスコールが掴んだ。




「…!スコール!」


「……自力で登ってくれ。引き上げられそうにない」


「お、おう!」




ジタンは足場をすぐさま見つけてすばやく這い上がり、


先に、とのほうを引き上げる。


が妹から、と器用に持ち上げたのだ。


最後にが引き上げられて一同がやっと安堵の息を吐いた。




「あはは…本気で駄目かと思いました……」


「はぁ…笑い事じゃ…はぁ、ないって!」


「まったくだ」


「はは…」




床に座り込みが一息つく。


ジタンの腕の中には妹の無事な姿もあった。


それを微笑ましく見つめてからは二人に向き直った。




「紹介が遅れました。僕はの双子の兄です」


「双子!道理で!……んじゃあさっきまで俺と一緒にいたはやっぱり……」


「はい、僕です。僕のアビリティのひとつにコピーというのがあるんです。


 ちょっとした嫌がらせのつもりでやっていたのですが、


 その様子ですと途中で気がついていたようですね」


「…まぁな。……あの、さ、敬語じゃなくてもいいんだぜ?なんか違和感が」


「あー…うん、わかった」




はふわりと微笑んだ。


やはり双子。


笑い方が同じだ。


ふわりと花が開くような柔らかさがある。




「さっきまで戦っていたように見えたが?」


「だって僕は……カオス側の人間だから」


「……!!」


「!」


「まてよ、スコール!」




カオスと聞いてスコールが身構える。


ジタンはそれを腕で制した、


もう少し話を聞こう、と促した。


は焦るわけでも動揺するわけでもなく見ていた。


覚悟してのことのようだ。




「それももう終わりだろうけど」


「どういう意味だい?」


「…僕は、コスモス側の人間であるを助けた。


 その行為はカオスに対する裏切り行為と見なされるんだ。


 今体内からカオスの力が抜けていくのを感じてる……完全にカオスに見放されたな」


「カオスが抜けると、どうなるんだ?」


「 死にます 」




何の感情もこめずに一気に言った。


空気が凍りつく。


ジタンも、そしてスコールもまじめな表情をした。


は、疲れも手伝ってかいまだに起きれずにいる妹の額をなでる。


手首の傷跡がいやでも目に入る。


前にあったときは頑丈な鎖に拘束されていたはずだ。


抜け出すとき、かなり無理をしたのだろう。


自分の中からカオスの黒い魔力が引いていく。


頭は段々とクリアに晴れていき先ほどまで抱えていた迷いが一気に消え去った。


ほう。


の体を蛍のような光が淡く包んだ。




「もしかしたら僅かにねたんでいた部分があったのかもわからないけど。


 カオスに身を売ってしまうほどじゃなかった。一瞬の死に際にたってみたとき


 すごく自分が弱い存在だって気がついた。それが怖くて僕は逃げ出してしまったけど。


 この子は、僕と正面から向き合ってくれた。そういう意味ではまた会えてよかったよ。


 こうやって喧嘩みたいなのをしたのも……初めてだしね」




遺言のようだ、とスコールは思った。


実際そうなのだろう。


聞かせたいであろう相手は残念ながら眠っていたままだが


彼にとってはそちらのほうがいいらしい。


そしては伏せ目がちな瞳を二人へと向ける。




「力の根源はカオス。だから奴さえ倒せばすべてを止めることができるでしょう。


 大丈夫。皆さん…なら必ず奴を倒せ…ます、よ……」


「お、おい!!」


「身体が、透けていく……」


「お別れ…は、やはり……さみし……もの…で、……」




言葉が途切れる。


再び言葉が敬語に戻っていく。


無意識。




思わず二人は息を飲んだ。


彼が最後まで微笑を絶やさなかったこと。


恐れや不安といったものが感じられなかったこと。


すべてを、受けれていたこと。


光に紛れてしまう前。


はジタンの腕の中で眠る彼女の額にそっとキスを落とした。




「…それま、で………眠…ろう、……か………な………」




シュン。


弾ける音。


最期の光はを目覚めさせた。


ジタンがはっとなる。




!…今、が…!!」


「…うん。行っちゃった、ね。遠くに……」




のいた場所へと手をさし伸ばした。


導かれるように。


無意識にそっと。


キン。


魔力がはじかれて指先に暖かいものを感じた。


それは、クリスタルだった。


一転の曇りもない白色の十字架の形をしたクリスタル。


それを腕の中に閉じ込めては微笑んだ。


彼と同じふわりと笑った。




「ホント、馬鹿なんだから……」




ぽつり、とつぶやいた。














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