きみと、 15














ふにゃ。


言葉にならない寝言。


時折彼女が漏らす声。


その度に掛替えのないプレゼントをもらったときのように心が晴れる。


潤っていく。


そんな彼女は今ジタンの尻尾の先のところを軽く握りながら眠っていた。


握る、とは少しちがうか。


眠っている彼女の指先に力はない。


握る、というより持つ、といったようなもの。


無意識の意識のうちに手の中に収めて彼女は安心しきった様子だった。


きっといい夢でも見ているのだろう。


最近は眠りが浅く、夢見が悪いということに気づいていたので心配していたのだが


久々に兄に会って、本人何かしらの納得いく結果を目の当たりにして


少しは気が軽くなったようだった。




スコールと見張りを変わりテントの中へ入ってみるとまず一番に


お腹のところまで毛布をかけて無防備に眠る彼女がいた。


無防備なんて、珍しい。


いつもならどこか緊張させた雰囲気があるのに。


今はこんなに安堵しているように見える。


ジタンは毛布を肩まで捲り上げてからひっそりと息を吐く。




(俺たちを信頼してるんだな…)




髪色にしては珍しい春に咲く花の色をなでて見る。


ピンクというよりは赤に近い、春の陽気のような色。


桜を連想させる色だった。


彼女は唇に笑みを含めた。


自然と自分も微笑む。


テントの外で焚き火がはじけた。


そしてふと、子供の悪戯を思いついた。


自分のほうへと差し出された彼女の手のひらに、


自分の尻尾の先を宛がってみればどういう反応をするのだろう。


悪戯というよりは単なる好奇心。


案の定それは起こった。


彼女は指に触れたふわふわなものを手の中に入れた。


期待通りの反応だった。


ただ。


それだけなのに。


うれしくて仕方がない。


眠っている彼女をそのまま抱きしめてしまいたいほど嬉しくて、愛しい。


ジタンは壁にもたれかかりながらずっと彼女の寝顔を見ていた。


今までの旅の疲れを忘れてしまうくらい夢中になっていた。


時間が驚くほど早く進む。


見ているだけだというのに全然飽きる気配がない。




「……」




けれども。


これを続けて目の下に隈でも作ってみれば彼女はきっと心配するだろう。


どうしたの?


眠れない?


なんて、言うだろう。


ジタンは体を滑らせて彼女の隣に横になった。


足を器用に伸ばして足元に畳んであった毛布を手繰り寄せる。




「おやすみ」




小さくつぶやいてから目を閉じた。


今まで忘れていた眠りの波がさっと引き寄せて夢へと誘う。


彼女の指はまだジタンの尻尾を持ったままだった。









 +









「ご、ごめん、ジタン。気づいたらその…握ってて!……寝辛かっただろ?」




起こしてくれてよかったのに、とは言った。


しゅん、とした様子が愛嬌たっぷりで思わず顔が緩むのをこらえてから


ジタンは何事もなかったように




「気にすんなって!お陰でぐっすり眠れたしな!」




なんて言ってのけるとは後半の言葉の意味がわからずに首をかしげた。


握らせたのは自分だったのだが、お陰で貴重な寝顔と反応が見れた。


ジタンは密かに喜んでいた。




違うフィールドに移ったところで向こうからバッツがやってくるのが見えた。


導きの光はそこで終わりクリスタルはスコールの手の中に落ちる。




「バッツ!探したぞ!」


「なんだ、無事そうじゃん!」


「ジタン!スコール、それにも来てくれたのか!」




目立つような傷がみえない彼にスコールは「平気そうだな」と零す。


バッツは乾いた笑みを浮かべていた。




「いやー強そうな奴らがいっぱいでさ……っと、それより、見ろよ!」




バッツはそういってクリスタルを取り出して三人に見せた。


あれ、とが思う。


それはほのかにピンク色の光を帯びたものだった。


しかし、先ほど自分のクリスタルから感じられたようなぬくもりがそれにはない。


自分のじゃないからかな。


は思ったけれども口には出さなかった。




「あいつらから奪ってきたんだ。勝負は……って、あ!」


「へへーん、この勝負は俺の勝ちってな!なんだよ、散々心配かけといて――」




ちゃっかりしてんなぁ!


ジタンはそういってクリスタルへと手を伸ばす。


いやな予感がする。


そういえば何人の人が信じてくれるだろうと思った。




「まって、ジタン!」


「――え」




『ジタン!?』




遠くのほうで音がぼやけた。














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