きみと、 16














「……タン、ねぇ、ジタン……」




控えめに服を引っ張られる。


ゆっくりと意識が覚醒して目の前の彼女の姿も映し出した。


ジタンが目を覚ましたことで彼女がほっと安心した表情を見せた。




「…あれ、バッツは?スコールも…」


「わからない。けど多分、僕たちだけどこかに飛ばされたみたい……」


「あのクリスタルか!」




クリスタルに手を伸ばすジタン。


は彼を止めるべく彼の腕を引いたのだ。


しかしジタンの指先はクリスタルに触れてしまい、そのまま二人とも光にも見込まれたと…


とりあえずお互いの無事を確認し終えたとき、空間に笑い声が聞こえた。


二人とも身構える。




「ようやく会えたね。……おや、も一緒なのかい?」


「クジャ」


「……」


「ゲームとやら……楽しめているようだね」




聞き覚えがある声。


あの時は確か。


こめかみに手を当てて記憶を探ってみる。


癖のある声から覚えている。


……。


あぁ。


そうだ。


この声はに殴られた後に薄れていく意識の中で聞いたのだ。


あの時兄はトランスをしていたからそのまま彼の元にいるのだと勘違いしているのだろう。


が黙ったままだったのでクジャもさすがに不審がった。




「ん?もしかしてキミは……」


「兄さんが世話になったようだね」


「!!……へぇ!これは驚いた。キミはだね。


 あまりに似ているからわからなかったよ。


 ……どうやってあの牢獄から抜けたんだい?」


「牢獄?」


「……」


「知らなかったのかい、ジタン?」




ぺらぺらとお喋りな奴だ。


クジャが現れてからのジタンの表情が険しい。


きっと何かしらの因縁があるに違いないがに知る由はない。




「この子は君の代わりに罠にかかり、僕たちの拠点へと飛ばされた。


 この子はかなりの魔力の使い手だと聞いていたからね……


 魔法が使えないように両手を拘束し、魔法の力の一切を封じたんだよ。


 頑丈な鎖だったはずだ……その手首を見ればわかる。相当足掻いたんだろう?


 君が魔封師だということを君のお兄さんから聞いていたからね。万が一


 魔法の拘束が解けても、両手の拘束は決して取れないように念を押していたのさ。


 どうやって抜け出したのか、ぜひとも聞きたいね?教えてくれよ。


 腕を引きちぎったのかい?……それとも裏切り者でもいたのかな??」




は睨み返すことしかできない。


あのときの恐怖が今頃になって戻ってきた。


そうさせているのは、クジャだ。


ジタンの表情がどんどん曇っていく。




『…あはは、抜け出すときドジちゃった』


『ま、いいだろ別に。今無事なんだし!この傷は治りそうにないけど、もう痛みもないしさ』


『そんな深刻そうにするなよ、ジタン。僕だって戦士の端くれなんだし』


『……これくらいの覚悟はできてたよ』




言葉の意味をようやく理解する。


自分だけが蚊帳の外にいるみたいだった。


彼女だけが、抱えてたんだ。




「今の話……本当なのか?」


「…っ」


「なぁ?何で答えないんだよ、……」


「……」


「答えろよ!!」




空間にこだまする声。


そうだよ。


頷いてしまえば軽蔑されてしまうようで怖い。


躊躇いが言葉を殺した。


彼を余計に不安にさせるということはわかっているのに。


喉で詰まる。


クジャは面白そうに声を上げた。


き、とジタンはにらむ。




「そうそう、忘れるところだったよ……


 君の友達はいい駒だ――疑いもせずキミに罠を届けてくれたよ」


「全部お前の仕業か――俺の仲間は何処だ!」


「この状況でまだ他人の心配をするのかい?――ゾっとするよ」


「答えろよ」




ジタンの声が怒りで少し震える。


こんなジタン、初めてだった。


怖い。


怖い。


俯いた顔が上げられない。




「一人は不安かい?守るべきものがすべて消え去ったらキミはどうする?」


「なに?」


「同じ運命を背負うものとして試してみたかったんだ。


 自分の無力さを知った時、君の心がどう砕け散るのかを」




意味ありげにクジャは言った。


確実にの事を指していっていた。


ジタンがちらりと隣を盗み見る。


怯えたように俯く彼女の表情は前髪で隠れてよく見えない。




「仲間が傷ついても今の君には何もできない。


 囚われの小鳥のようにカゴの中から友の悲鳴を聞くだけだ」


「黙れ!」


「キミの独演 ゆっくりと眺めさせてもらうよ」




高らかに笑う。


笑い声と共に消え去った。


その空間に二人が残され、気まずい空気が漂った。


くそ。


つぶやいたジタンの言葉はを余計に震わせた。














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