きみと、 17














それは意外にも呆気なくて、びっくりした。


勿論初めてではないはずなのに。


触れ合った瞬間は胸がきゅんと高鳴って。


戦いのことなんて忘れてしまうくらい愛しさが沸いてきた。


唇に残った彼の熱が夜の冷気に消えていく。


彼は珍しく控えめな様子で




「嫌、だった?」




と尋ねた。


は静かに首を横に振ってううんと返し、そっか、とジタンははにかんだ。


そして、彼女は思い出した風にはっとなった。




「お腹、すいた?」


「あーそういえば…すいたかも」


「はは…うん、じゃあすぐ作るね。後煮込むだけだから」


「サンキュ!」




ジタンが集めてくれた分の薪に適当にくべてぱちんと指を鳴らす。


詠唱なしの魔法なのに指示通りに小さな炎が薪へと伝わって時期にちょうどよくなっていく。


料理を作る際、または見張りようの火を点す際、の魔法は重宝されていた。


生まれつきある能力だから息を吸うのと同じくらいの感覚で使える、とのこと。


ジタンは勿論バッツも「すごいな!」と感心していたし、


あの無口なスコールでさえもへぇ、ともらしていた気がする。


その上戦闘時において想像も絶するような巨大な破壊魔法、


治癒魔法を繰り広げてくれるので今ではは欠かせない存在となった。


に言わせて見れば




「みんなの方がすごいだろ。僕なんか魔法しか使えないし…全然だよ」




らしかった。


なべの中の具材がクツクツと煮えてくると、食欲を誘ういい香りがしてきた。


今夜はスープとパン粥のようだ。


食事にしては質素なものでも旅の食事にしては立派なものだった。


さらに適当に装って彼へと手合わすと彼は元気よく「いただきます」をいってから


がむしゃらに頬張った。




「うめぇ!」


「そう?いつもと変わんないよ?」


「でもすっごいうまいぜ、これ。…あーあ、今頃バッツたち何食ってんのかなぁ


 絶対うらやましがってるぜ?」


「そ、そんな事…。あ、でも、バッツって旅してたって言う位だし自炊は得意そうだよね」


「だな。んで、それをスコールが黙って食ってる…」


「はは、作ろうと思えば作れるんだろうけどな」




会話が弾む。


いつもしているのとなんら変わらない会話。


現状を遠ざけるような平和。


この静けさが好きだ。


目を細めて笑いをこらえながらふと思った。




「焼き魚とかなら誰が作っても変わんないんじゃない?」


「あ、魚!」


「??」


「薪、拾いに行ってたときな。川を見つけたんだ……何なら2.3匹獲ってくりゃあよかったぜ!」


「魚かぁ。じゃあ明日の朝ごはんにする?獲ってくるけど」


は待ってろって!オレがぱぁーといって獲ってくるからよ」


「え、いいの?」


「あぁ」




得意なんだぜ!


と子供っぽく笑うからは素直に「じゃあ2.3匹お願い」と任せることにした。


彼の尻尾が時折揺れる。


機嫌がいい証拠。


こっちまでうれしくなる。




「朝食食ったら、出発しようぜ。二人の無事もちゃんと確認したいし」


「…そうだね。一応いやな感じの反応はないんだけど、やっぱり見ないとね」


「うん」




そういえば。


彼女はそういったものを感じることができるのだった。


こういった会話の最中でも敵が近づいてくれば、仲間の危険がわかるように


無意識に近い状態で察知している。


慣れている。


きっと。


ジタンの知らない、知る由もないころから。


“こういう”経験があるんだ。


だから、こんなフィールドの真ん中でも平然としてられる。


そばにいるものまでも安心させる。




「ジタンはさ、盗賊だったんでしょ?あ、ていうより今もか」


「まぁな。盗賊団タンタラスっていってさ。バクーとかシナとかルビィとか……


 仲間もいるんだぜ!で、表向きは“劇団タンタラス”って言う名義で公演もしてるんだ」


「劇?あ、じゃあジタンも演じたりするの?」


「当然!」




得意げに話すジタン。


仲間のことを話すとき、彼は自分のことのように誇らしげに言った。




「僕もね、演劇じゃないけど舞台には立ったことあるよ。歌姫のマリアの役だったんだけど。


 ……道を進むのにどうしても飛空挺が欲しくてさ、ちょうどそいつがマリアを誘拐するぜ、


 っていう手紙を団長宛に差し出したんだ」


「予告状か……。それで?」


「うん、だから僕たちはわざと攫わしてしまおうってことにしたんだ。


 マリアに変装した僕を、ね。


 お陰で舞台は成功。飛空挺も見事使わせてもらえるようになって、


 僕たちは進めるようになったんだ。一石二鳥だね。


 …成功っていっても僕はワンコーラス歌うだけだったんだけど」




それでもすごい、と彼は言った。


本業は盗賊といっても演劇に興味がないわけではないとのこと。




「いつか機会があったら聞かせてくれよな!」


「機会があればね。……多分全部終わってからなんだろうけど」


「絶対だぜ?」




全部が終わってから。


それはこの戦いの終わりを示す。


戦いが終われば。


この前自分が彼女へとした質問を思い出した。




『この戦いが終われば、やっぱ、は…元の世界に戻るんだよな?』




それは。


別れを意味する。


永久の。


別れを。




…」


「何?ジタン」




考えなしだって、わかってる。


彼女にだって、譲れない何かはあるはずだ。


だけど。


ここで言わないと、もういえない気がして。


このまま。


思い出になっていく気がして。


ジタンはに向き直っていった。









「俺の世界に来ないか?」














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