きみと、 19
――俺の世界に来ないか?
その意味を理解できないほど、子供ではない。
かといって。
それをすんなりと受け入れられるほど、大人というわけでもなかった。
の表情は一瞬ゆれる。
困惑している。
困らせたいわけじゃないのに。
「困らせるような事いって、ごめん」
「う、うん…大丈夫」
「……」
手のひらを軽く握って胸の前に当てている。
躊躇いが見える。
戸惑いも。
迷いも。
すべて、わかってたじゃないか。
「返事、考えてみてもいい?僕なりに……」
「…あぁ」
「ありがと…」
ほう、と息を吐く。
さて。
そんな軽い呟きが聞こえた。
ジタンが口を噤んだ。
あまりにダンマリするものだからは苦笑しながら小突いた。
「明日も、頑張ろうな」
「……おう!」
今はただ。
彼女からの気遣いに感謝した。
+
ジタンはいっていた通りに魚を獲って来てくれた。
朝は魚に塩を軽く振って焼いて食べた。
お互いが少し早めに起きたので日が昇り、少しするともう出発できるようになっていた。
今は二人でフィールドを歩いている。
時折襲い掛かってくるモンスターも、二人で撃退していた。
そして。
とうとう二人はクリスタルワールドへときた。
クリスタルの結晶があたりに散らばる世界。
がこめかみの辺りに手を当てる。
敵の反応。
その仕草がジタンにも伝わったようだった。
スッ。
と道をふさぐようにクジャが現れる。
一歩。
ジタンがの前へと出た。
「クジャ。そこをどいてくれ」
「君に道は必要ないだろ?」
「仲間のところに帰るんだ」
クジャは不愉快そうに首をひねった。
「なぜ諦めない?一人がそんなにイヤなのかい?」
「信じてるからだ」
「信じる?他人を?仲良しごっこにすがるって言うのか?」
「信じる気持ちは遊びなんかじゃない。お前にだって仲間はいるだろ?」
「仲間?僕をあんな下賎な連中と一緒にするな!」
でも――。
ジタンの言葉はかき消された。
クジャが繰り出した黒魔法をジタンはバックステップを踏んでよけ、
は地を蹴ることによって交わした。
ゾクリ。
もうひとつ反応を感じる。
「下賎とは…言ってくれるわ」
「暗闇の雲!!――邪魔をするな!」
「わしはただ、逃げ出したねずみの後始末に来ただけのこと。
こいつを生かしておくと後々面倒なのでな?」
「…」
「」
「あぃよ」
逃げ出したねずみ。
つまりはだ。
は杖を装備して真っ先に攻撃を仕掛けにいった。
様子見のサンダガが一直線に軌跡を描く。
「相手してやんよ、オバサン」
「ふん、おぬしから来てくれるとは好都合――あぁ、破壊の欲が、疼く!」
「……言ってろよ」
目を伏せる。
息を吐くと少しだけ落ち着いた。
強い再生の力を持つ聖人。
対するは。
破壊と無の回帰を望む妖魔。
衝突しあう。
は一気に距離を縮める。
「荒れ狂え」
… フレア …
至近距離で容赦なく黒魔法を唱えた。
+
遠くで爆発音が聞こえた。
視界の端では左手にある杖で先制攻撃をしているが見えた。
戦いが続く中。
きっと自分たちのことも気になっているだろう。
だからこそ。
早く終わらせるつもりなのだろう。
「失望したよ。救いのない悲劇を楽しもうとしていたのに――とんだ駄作だ
こんな愚かしい戯曲には終止符を打たなくちゃ――!」
クジャはそういうと自分の周囲に白く光るたまを出現させた。
ジタンはぐ、と姿勢を低くして走り出す。
「僕が奏でてあげるよ、君のレクイエムを!」
ジタンを追いながらクジャは楽しげにホーリーを次々と繰り出す。
ホーリーはジタンが走るクリスタルの側面に次々と命中して
ヒュ、ヒュ、という音を鳴らした。
ジタンはクジャを睨みながらも走り続けた。
後ろからはどんどん魔法が迫ってくる。
「うるさい曲だな!」
体を反転してブーツとダガーを使って勢いを殺す。
クジャが正面から高らかな笑い声を上げながら近づいてくる。
勢いが止まるとジタンの金髪が揺れた。
クジャに向かい壁を蹴る。
「まだ第一楽章だよ?」
「わかってるさ!クライマックスは――」
これからだ!
二人が衝突しあった。