きみと、 20














土煙が視界をくらませる。


視界の悪さに軽く舌を打っては杖を軽くなぎ払った。


僅かな風。


名前もないほどの微力な魔法。


杖の先端についている水晶の部分が赤く灯った。


遠くのほうからは見られているような意識が伝わってくる。


ニヤリ。


背筋が凍る感覚を覚えはすぐに壁を蹴り姿勢を整えた。




「っと」


… 追尾式 波動砲 …


(ついて来るのか…)




空中で一度旋回し方向を変える。


うまい具合に違うクリスタルへと足をつけて追尾してくるそれと対峙した。




…  リフレク  …




魔法攻撃を跳ね返す魔法呪文。


杖を振るったその軌跡が壁となりはじき返す。


弾かれた波動砲は時期に消滅した。


その瞬間足元に自分のものではない影が落ちる。


上からは暗闇の雲の姿が。


腰に纏わりつく二本の触手が一気に攻撃を繰り出す。


は杖で庇うようにして避けていた。




(遠方からは波動砲。近づけば触手……中距離ってホント苦手)




ド、と強い攻撃を受ける。


杖で防ぎはしたものの威力は止まらずに後方に飛ばされた。




(――つ、)




壁に打ち付けられる体。


弓のように反れる。


一瞬大きく目を見開く。


光が強まり真っ白になる視界。


瞳が小さくなった。


頭を強引に振ってすぐに意識を取り戻す


背中を強い力で殴られたような痛みを覚え思わず顔をしかめた。


一瞬の眩暈。


眩んだ視界に映った暗闇の雲。


容赦なく波動砲を打ち出そうとする。




「へ、何時までも大人しくしてると思うなよ…」




天地創造の炎よ。




… メルトン …




左手に力が込められ同時に炎と風の入り混じった魔法がヤツを包んだ。


壁から剥がれ落ち、足場に降り立った瞬間も杖に込める魔力は変わらない。


圧縮する魔法。


これで決める。


そう思った刹那だった。




(――ぁ)




背中の痛みが今頃になってズキンと痛み、杖から指が解ける。




するり。




左手の指先が寂しくなり目を見開いた。


暗闇の雲を縛っていた魔法、メルトンも中途半端な形で掻き消える。




杖が。


重力に従い下へと落ちる。


は奥歯を噛み、杖へと手を伸ばした。


不覚だった。


大事な武器を落としてしまうなんて。


は懸命に左手を伸ばした。


手は、


空を切った――




… 零式 波動砲 …




「小娘が…小癪な…」


「……、」




巨大な波動砲。


は再び舌を打って杖を諦めた。


杖は遥か下に無造作に放り出されている。


取りに行きたいのは山々だが、暗闇の雲がそれを見逃さない。


僅かにかすった左手を軽く振って少し上の位置を


余裕げに浮遊し自分を見下ろしている暗闇の雲を睨んだ。


ニヤリ。


ヤツは酷く興奮した様子で笑って見せた。




「杖がなくては…聖人もただの人間、か?」


「……」


「さて、どうする?」




睨み返すことしかできない


杖は遥か下。


どうすれば。


杖を早く回収しに行かないと。


ヤツ相手に素手で戦うのは困難だ。


遠くのほうで金属通しが触れ合う音がした。


ジタンがクジャと戦っている。


彼もまた、クジャの繰り出すホーリーに苦戦していることなど


今のに走る由もない。


思慮する頭。


なん通りもの策を捻っては丸めて捨てた。


こうなったら。


ぐ、と手のひらを握り締める。




…  トランス  …




魔力がゆれて体の中央からあふれ出すものを形にした。


まるで放出された魔力が目に見える形になってまとわれるよう。


光が包み込んで全身に溶けていった。


まるで、そんな感じだった。


楽に腰の辺りまで伸びた髪は風も吹いていないのに


緩く波を打ち、その紅い瞳は人間離れしつつも穏やかな温かみがある。


背中の翼が容易に天使を想像させた。


は心を落ち着かせて暗闇の雲をじっと見据える。


暗闇の雲は見下すような視線を返してつぶやく。




「愚かな…」




両手のひらに魔法の力を集中させた。


呪文の詠唱の後手の近くに白い球体…ホーリーが集う。


きッ、と睨み返した。




「ここからだ…!」














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