きみと、 21















「そんなに彼女のことが気になるのかい?」




つまらなそうに。


ちっぽけなものを見るような眼差しを送る。


ジタンは荒い呼吸を繰り返していた。


それでも武器をしっかりと構え、手放さない。


頭の端でクジャの声を受け取っていた。




「実に愚かしい曲だよ。醜いセレナーデだ」


「酷い言いようだな」


「だってそうだろう?」




クジャの視線が静かにへと移される。


何事か考えているのかクジャはその先を言わなかった。


伏せられた瞳にかすかな憎悪が宿る。


段々と。


表情が険しくなっていく。


そして一歩、踏み出した。


彼女のほうへと。


表情は暗い。


唇は何事かをつぶやいていた。


ジタンは瞬時に彼女の危険を察する。




「おいおい!――アンタの相手は俺だろッ!」


「僕は彼に用があるんだ――」


(彼――??)




繰り出されたホーリーは追尾式。


数個のホーリーが一気に襲い掛かってきた。


くっ、と身構える。


そしてジタンは彼女のみを案じながらも目の前のホーリーを先に片付けてしまうことにした。


早く。


一秒でも早く――。









 +









トランスした状態での魔法でさえ、杖装備時に劣るものがあった。


段々と威力を図ることができてきたのか暗闇の雲は


初期魔法のような軽度のものなら避けることはせずに向かってくる。


その隙に、と。


は何気なく杖へ動く。


しかし。


読まれる。


先に回りこまれて波動球を食らうのが落ちだった。


戦略タイプのも、今度ばかりは自嘲するしかない。




「この程度か?もう少しは楽しめると思ったが…」


「……、…」


「呪文は効かぬというのに……憐れな」




… 3倍メテオ …




広範囲に渡って繰り出した。


マグマのような炎をまとった隕石が次々と落石する。


は翼で空気を押し出し一気に後退した。


杖から離れる結果となるが、仕方ない。




クリスタルの頂上へと降り立つ。


1mほど前へ進むともうそこには足場がない。


風が、吹く。


髪が揺れた。




―― グ




「!」




顔を無理やり引っ張られる。


は半ば強制的に後ろにいた存在に振り向かされた。


頬に食い込んだ長い爪が皮膚を削る。


はしまった、と自分の油断を後悔するがもう遅い。


彼の灰色の瞳が射抜くようにを見つめた。




(なんて)




冷たい色なんだろう。


吸い込まれそうなほど綺麗なのに。


何でこんなにも。


寂しそうなんだろう。


儚げなんだろう。




そう思うと思わず体が硬直した。


金縛りにあったように動けなくなる。


ジリ。


爪が皮膚を傷つける。


ただ頬に爪を立てられているだけなのにひざが崩れ落ちた。


だらしなくしゃがみ込んでもまだ、彼から視線をはずせない。


長い髪が地面で渦を巻いた。




「君は」




微かな音。


この距離でようやく拾える声。


呟き。




「どうして、」




は目を見開いた。


じっと、彼を見つめ返す。


言葉を拾っていく。




「僕の前から消えたんだい?」


(――??)




どうして……


震える声だった。




「君も、僕を置いていくのかい?」




穏やかで、その反面どこか突き放すような棘がある。


わからない。




「ずっと傍にいるって、言ったじゃないか……あれは虚言だったのかい?」


(……。もしかして、僕を……)


「僕だけは見捨てない、って、確かに君は言っただろ……」




“  兄さんと勘違いしてる?  ”




確信する。


は少しだけ表情を歪める。


クジャの指先にさらに力が入ったのだ。


爪の先が赤くにじむ。




「兄さんは――君を見捨てたの?」


「…」


「――放り出したの?」




クジャがの言葉に微かな動揺を見せた。


瞳が揺れる。


過去の情景を脳裏へと伝えている。



















“ 寂しんでしょう、本当は ”




出会ったばかりの頃。


彼のことは嫌いだった。


カオスの中でもジェクトに続くくらいに浮いていて


闘争心も野望もなく、ただただ妹に関してのみ酷く執着する。




“ ずっと、一人だったんですよね。――君も ”




まるでそのこと以外の何者も興味を宿さないように。


軽く、あしらっていた。




“ 短い間かもしれない。だけど、僕は君の傍にいます ”




急に自分の前に現れて何もかも見透かしたような瞳で微笑む。


甚だしい。


最初はそういい突き放した彼の言葉。


それなのに。


回を重ねることに「付き合ってやっても…」なんて、思い始めるようになった。


二人だけのときくらいなら。


茶番に付き合ってやっても、と。




“ だってそうすれば――君も僕も一人にならなくてすむでしょう? ”









きっと


僕は


彼の微笑みに


救われていたんだ



















「本当に君は――飛べない小鳥だよ」









僕はまた、


君を突き放す




そしたら君は


また


手をとってくれるのかな?














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