きみと、 22















避けようと思えば、避けられたかもしれない。


完全に避けられなくっても。


きっと。


今のような状態にならない方法なんて、いくらでもあったはずだ。


二度目の落ちる感覚。


浮遊感。


寂しそうに見下ろすクジャの姿が、段々と小さくなっていく。




無意識に伸ばした手のひら。


彼はなんともいえない顔をしていたんだ。


思わず目を奪われる。


そして。


ピンクの光が視界の隅をよぎった。









 +









ピンクの光は自分を包み込むとそのままうまく軌道修正して安全な場所へと舞い降りた。


そっと見上げると、それは間違えることのないジタンで。


初めてみる容姿に少し戸惑いながらもは微笑んだ。


トランス状態のジタンはピンクの尻尾をしゅんとさせながらもを抱きしめる。




「心臓に悪いぜ…」


「ありがと、ジタン。はじめ誰だかわかんなかったや…」


「…、そういや見るの初めてだったっけ?まぁ俺ものトランスを見るのは初めて…


 って、――この傷!」


「え?」




腕を解いたときに、ジタンがの頬についた傷を見つけた。


彼女はすぐに其れが先ほどクジャに引っかかれたときのものだと悟る。


クジャにされたのか、というジタンの言葉には目を伏せて返した。




「さっきの攻撃さ、実はかわそうって思えばかわせたとおもうんだ……」


「!」


「だけど何か、クジャの表情見てたら……兄さんならどうするだろうって思い出して」




避けられなかった。


否。


避けなかったというのが正しい。


兄さんならきっと。


好かれる、嫌われるなんかじゃなくて。


きっと好きも嫌いもどちらだって、全部受け止めてしまう気がして。


そう思うと、体が動かなかった。




「…うん。ありがと」




ジタンは俯きながらもそういった。


ぎこちなく。


最後のほうは消えそうなほど小さな声だったけれど。


確かにには聞こえた。


そしてジタンは消毒だといってそっと傷口に舌をあてた。


一瞬の痛みに片目を閉じた


微かな身震いで其れがわかったのか、ジタンは強引にはしなかった。


は少し困った風に首をかしげながら遠くの変化に気づく。




「捕まって」


「??こうか?」




… テレポ …




一瞬の集中。


と彼女の手に捕まったジタンが一気に瞬間移動する。


直後、ドォォオ、という轟音が少し離れたところで鳴った。


が其れを静かに見下ろす。


見下ろしたすぐ傍には暗闇の雲が自分の存在を目で追っていた。


そう、今は戦いの途中。


戻らなければいけない。




「もういい加減疲れてきた…」


「いけるか?」


「いけるもなにも……罠はとっくに仕掛けてんだけどね。後はかかってくれるのを待つだけ」


「……流石」


「どうも」




二人が同時に地面を蹴る。


は暗闇の雲へと、そしてジタンはクジャの下へと。


再び闘いがはじまった。









 +









暗闇の雲が痺れを切らして杖を回収した。


もうお遊びは飽きたらしい。


完全にが杖を持たないとただの人間ほどだと気づき酷くつまらなそうだった。


は、クリスタルの端に腰を下ろして余裕気に見下ろしていた。


ウェーブがかった髪が揺れる。


彼女は整えることをせずにそのまま泳がせていた。




「足掻くことさえせんのか?…覚悟を決めたと見える」


「覚悟?良心と同情を捨てて今からアンタを滅却するっていう覚悟のこと?」


「減らず口を……最期の時までそれは変わらんようじゃ。


 この武器がなければまともに戦うことも出来ぬのであろうに……」


「 んなこと、誰が言ったよ 」




クイ、と口角が持ち上がるのと、が手を前に差し出したのは同時だった。


それを合図に杖の先の赤い水晶の部分が光を放ち一気に暗闇の雲を包み込んだ。


光は球状となり、暗闇の雲を閉じ込める檻となる。


余程居心地が悪いらしく形相を変えて足掻き苦しんだ。


はそれを何の感情も込めずに傍観的に見下ろす。


覚悟は、出来ている。




「別に、杖を手放したからって魔法の威力が落ちるわけじゃない。


 ……あれは全部僕の演出」


『何!?』


「そうしたのはアンタを油断させるため。敵が弱いと知ると簡単に手を抜くだろうってね」


『…己、小癪な真似を』


「トランス状態でアルテマとかメルトン使うっていう方法もあるにはあったけど、


 確率の問題だよね。外れたときのことも考えておかないとだったし……


 生憎アンタと僕は相性悪いみたいだから確実に近距離で狙える手段を使わせてもらったよ」




自ら杖を手にとってもらえるために。


敵を油断させるために。


弱者を演じる。


はもっとも安全で、もっとも確実な方法を選んだ。


無駄な消費を防ぐために。


戦略派とはよく言ったものだ。


なかなかな戦略タイプ。


計画を実行することも出来ている。


それは長年ケフカのもとで帝国兵として戦ってきただからこその戦法だが、


今の暗闇の雲には知る由のないことだった。




「あとこれは余談。その杖の水晶。僕の魔力を吸う吸魔石って言うんだ。


 本当はカオスを封印するって言う大役のために魔力を吸わせてたんだけど……


 少しぐらいなら使っちゃっても構わないかな…」


『――!何をする!?』




圧縮する光。


窮屈になっていく球。


は伸ばしていた手に力をどんどん加えている。


そして。




グッ。




強く握り締めた。




… 封結 …














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