きみと、 23















封結。


それは封の印を結び相手を完全に封印する、という意味合いのある言葉。


一種の呪文のようなものでもある。


はその言葉を呟いた後、消えた光と


自分の手の平を交互に見て悲しそうに目を伏せた。


すべてが掻き消えた今、刹那さとむなしさだけが残る。




争いなんて、大抵そういうものだと思う。


自分が帝国兵だったとき。


毎日抱えていた思いだった。


今となっては懐かしい思いでも、当時ではやはり重荷以外の何者でもなかった。


内に秘めた思いを誰にも告げずに、悟られずに、体内で消化する。


未消化のせいの不意打ちは自分の弱さなのだと強く言われていた。


押しつぶされる窮屈さ。


絶えない争い。


戦争。


魔法の力がこの世に存在する限り、人はその力を欲し、追い求め、


欲求に目が眩んだ愚者は何物にも変えられぬものまで剥ぎ取り代価としてよこす。


そうやって廻ってきた世界だった。


僕やティナがいた世界というのは。


ロックや、エドガーたちに会うことが出来なかったらきっとあのまま抜け出せずにいた。


今を知れずに、まだあの暗闇の中で一人悶えていたかもしれない。


そうだ。


そういえば。


仲間たちに出会って。


帝国を自ら裏切って。


世界を旅して。


いろいろな経験をして。


辛い日だって勿論あった。


一時は魔法が使えなくなった時期だって。


一晩中自問自答を繰り返した夜だってあった。


だけど。


あの帝国の中にいては成しえなかった経験だ。


今ならそう思える。




ずっと人間は嫌いだった。


……皆に会うまでは。


争いばかりで、なんて馬鹿なんだろうと思っていた。


……自分だって半分人間の癖に。


世界と人間の醜さに諦念していた。


……所詮は高望みで、辻褄あわせ。


自分の存在を消したくて仕方がなかった。


……人間は醜い、幻獣は人を傷つける力を持つ特殊。


この力があるから、戦争は絶えないんだ。


だけど。




『俺の世界に、来ないか?』




(僕は――)




微風が吹いていた。


指先の力を一切抜くと、少しだけほっとした。


目を閉じて、瞑想する。


手の中には何の罪悪感も残ってはいない。




「逃げられちゃったか…」




否。


実際は逃がした、のほうが正しい。


最後の一瞬の躊躇いが力を緩めてしまった。


どこまでも甘い自分。


非道には徹しきれないのは前と変わらない。


敵にさえも、油断し、こういった大切なときに力は半減してしまう。




「ふぅ…」




背中に地面をつけて空を見上げる。


放り出した足をそのままにしておいてブラブラさせておく。


ゆっくりと深呼吸すると頭がだんだんとクリアになっていった。


…もう暗闇の雲の反応は近くにはない。


あれだけの攻撃をした後なのだから傷が浅いはずもない。


それに。


今の自分の力を恐れてしばらくは近寄ってこないだろう。




「 それでいい 」




そう呟くと、感情が静まってきた影響からかトランスが解けていった。


人間の肉体へと戻っても冷めた頭は変わらない。


静かに。


一陣の風と共に頬を撫でる。


曇天の空。


その雲間から僅かに差し込む光。


黄昏。


心。




「さて」




気づけば。


ジタンたちのほうが静かになっていた。


戦いが終わったようだ。









 +









決着がついたとき、なにか吹っ切れたような気がした。


直後に頭上でシュンと音がする。


蜂蜜色のクリスタルだった。




「あいつらがいる限り、負けるわけにはいかないんだ」




淡い光に指先が触れると指先が温かいものに


抱擁されているように守られているような気がした。


これが。


の言う“感じる”といったものなのだろうか。


クリスタルを両手で包み込む。


地に手を着くクジャをそっと見据えてジタンは言った。




「なぁ、クジャ――誰かを信じるってそんなに難しいことか?」


「他人を信じて――何になる?一人で何もできないから集まるんだろう?」


「信じていれば、自分の道だって見えてくる」




ジタンの言葉にクジャは歯向う。


あくまでも静かに言い放つジタンの物言いが歯向かっているようで気に入らないようだった。


ジタンは複雑そうに顔をゆがめた。




「僕は失望したんだ――僕は、裏切られた!」


「――誰が、あなたを裏切ったんですか?」


「――」




たん、と地に足をつける。


敬語口調は第一に彼を連想させた。





今は亡きの双子の兄。


伏せ目がちな瞳で凛とした雰囲気。


クジャは目を奪われていた。














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