きみと、 24















敬語口調は第一に彼を連想させた。





今は亡きの双子の兄。


伏せ目がちな瞳で凛とした雰囲気。


クジャは目を奪われていた。


ジタンでさえも一瞬見間違えるほど。




「約束を守れなかったことは、謝りまります」


「いまさら謝られたってもう遅いんだよ。君から手を伸ばしておいて、


 僕が取ろうとしたら君は振り払ったじゃないか」


「それは…本当に?」




クジャは彼の言葉に段々声が弱まっていった。


少しだけ声が震えている。


彼はクジャの目の前で膝をつき右手を差し出した。


静かに。


ゆっくりと。


クジャの目の前で手の平は止まる。




「なら、もう一度……今度はちゃんと――」


「雑音だ!耳障りだよ――!みとめないよ。終幕のとき喝采を浴びるのは僕なんだ――」


「クジャ――」




手を薙ぎ払ってクジャは掻き消えた。


カオスの雰囲気を残す黒い光が舞い上がる。


姿そのものを飲み込んで、消えた。




払われた手の平。


いく当てをなくして彷徨う。


躊躇いがちには俯く。


は哀しそうに瞳を伏せて左手で覆いこんだ。


唇をかみしめる


ジタンがそっと歩み寄り彼女の肩を抱いた。




「余計なことだった、かな…」


「…そんなことないさ。ありがとう……」




体重をジタンのほうへと近づけた。


ジタンもそれに応えるように肩を引き寄せて、二人は寄り添う。


身近の体温が落ち着かせていった。




「…うん」




ジタンの腕の中で、は言った。


目を閉じるとクジャの表情がよみがえってきた。


鮮明に。


色濃く――


意外だったせいか、印象も強かったようだ。


下へと落ちていく刹那に手を伸ばしたときの、彼のなんとも言えない表情。


躊躇い、戸惑い、そして僅かに宿すのは喜び。


あの時彼は。




(僕に手を伸ばそうとしたんだ。そして――)




助けようとしたんだ。




微かな一瞬だったかもしれないけど。


一瞬でも、そう思ったということを自分は信じたいと思う。




あの時突き放したのは彼だったのに。


彼女はもうそのことを忘れてしまっている。


甘い自分。


敵に情を移している。


同情。


愛するということ。


帝国を抜け出して、やっと芽生えた感情。




ジタンを見上げると彼は穏やかな表情でじっと見ていた。


は、と気がつく。


ずっと。




(自分が落ち着くまで待っていてくれた……?)




これじゃあどっちが年上なのかわからない。


彼が年齢以上に大人びているせいだ。


バッツやティーダといるときは同じように馬鹿しているというのに。


なんか…。


ちょっと悔しい。




「ありがと、ジタン。…そろそろいこっか」


「もういいのかい?なんだったらもう少し休んでもいいんだぜ?」


「…バーカ。そんな事言いながら、バッツたちのこと気になってるんだろ?」




の言葉にジタンは読まれてたか…と頬をかいた。


くすりと微笑む彼女。


心は穏やかに晴れていた。




「………」


「…どうした?…?」




彼がいつの間にやら繋いでくれていた手。


ちゃんとが整理できるまで待っていてくれたジタン。


自分を安心させるもの。


立ち上がろうとすると同時に彼の手にも少し力が入った。


手助けするように添えられる。


ちょっとしたフェミニストは彼のいいところだと思う。




この日々が好きだなんて言うとウォーリアに「今は戦いの最中だ」なんて


きっと酷く叱られると思う。


だけど、それを忘れるくらいにこの温度がすきなんだ。


ちょうどいいぬるま湯で、きっとどこまでも力を抜く事ができるけど


同時に力を入れて全ての事に備える事もできる。


それも全部仲間たちがいるから、そんなことが出来るんだ。


だって、一人になったときのあの心細さは並大抵のものではなかった。





独りは、怖い。


それを知っているのはきっと独りを知っているから。


無感情で動いていた帝国時代を今でも忘れる事ができないのはそのせいかもしれない。


はジタンを見つめた。


唇は閉ざしたままで遠慮がちに腕を伸ばした。


一瞬は首を捻ったジタンもすぐにその先の彼女の意図に気がつき、にこりとする。




「やっぱ、もう少し休もうぜ」




そういって、彼女の素直な行為を受け取ることにした。


彼女のほうから甘えてくるなんて、滅多にないことだ。


彼女の背中に手の平を当てて抱き寄せる。


ジタンの腰にの腕がまきついて、求められていた事が確かだったのを実感する。


ぎゅ、と抱きしめると彼女は嬉しそうに身じろいだ。




「 強がんなって 」




せめて、俺の前だけは。


そっと呟いた。














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