きみと、 27
コスモス…
ちゃんと、言葉にすることはできただろうか。
震えてしまって、もしかしたら消えてしまったかもしれない。
風にかき消されたかも。
コスモスは振り返る事もせず、ただゆっくりと歩いた。
視線はそれない。
調和の神の背中は、何かを覚悟した背中のような気がした。
仲間の誰よりもコスモスを先に見つけたのはだった。
みつけて、そして、何もできなくて、その場に立ち尽くす。
不安と恐れからいやいやと首を振る彼女の背中をジタンはそっと支えた。
そうすることしか、今の彼にはできなかったのだ。
孤独の波が引き寄せる。
「カオス――」
コスモスが燐と言った。
真っ直ぐに見つめるのは自分と対極の存在…混沌をつかさどる神、カオスだ。
悪魔のような羽で空気を書き割るようにして地に落ちる。
調和と混沌の神が向き合う。
ティーダがコスモスを庇う一身で地面に足を踏み込む。
カオスの意識が強くなったかと思うと、金縛りにあったように体が硬直してしまった。
何か重たい威圧を浴びているかのように全員その場に座り込み、動けなくなった。
まるでそこで見ているといわんばかりにカオスは嘲笑した。
「彷徨い、たどり着いた先もまた煉獄――無様だなコスモス」
「道を決めるのはあなたじゃない。彼らが知るべきは真の闇」
なんて。
弱弱しい声なんだろう。
今にも消えてしまいそうじゃないか。
調和の神は今、酷く衰弱している――
「ならば望みどおり――全ての光を消し去ろう!」
もしこの戦いに敗れれば――
もしこの戦いに敗れれば…?
はこぶしに力を込めた。
非力な彼女の力では到底カオスの抑える力に適うはずはなかった。
しかし、はそのために力を込めたのではない。
…魔力を集め、魔封の力を使う為だ。
「 刹那の時を封じられたものたちよ
永久の呪縛を約束されたものたちよ
黄昏の翼を掠奪されし哀れなものたちよ
わが身に宿りし“ 魔封 ”の力
今、汝の前に姿を現そう 」
言葉の羅列を詠唱する。
魔封の呪文だった。
呪文の内容は己が魔封師だと言う事を示すもの。
「 我の声を聞け
我の声に応えよ
我の問いかけに従え
我は魔封師の血を引くもの
名を・と申さん
そして我が魔封師
この地に再びはせ参じる時
汝に言葉を刻もう 」
… 封解 …
拘束から逃れ、は立ち上がった。
+
背中で仲間たちの声を聞く。
『行くな――』
『待つんだ!』
聞こえている。
けれど、答えなかった。
『一人で戦うな――!』
『いっちゃ駄目!!』
反応してしまうと、恐れてしまうから。
『――!!』
大丈夫。
傷の痛みはもう知ってるから。
それに。
―― 見捨てるのは、もういやなんだ。
+
「聖人が一人で何をする?」
低い大地を震わせる声。
体内の魔力がコイツと近づく事を全否定する。
コスモスの前へ立ちふさがりカオスと対面した。
「一人じゃないさ…皆ちゃんといる。見えてないわけ?」
強がりの言葉が何処まで通用するのか。
混沌の神は自分を見下ろしてただ嘲笑するばかり。
何もかもがお見通しのような気がして身震いする。
「ほう、恐れぬと言うのか」
後ろでコスモスが自分の名前を呼んだ。
構わずには詠唱を始めた。
本日二度目である魔封の詠唱。
しかしさっきとは逆のものだ。
さっきの魔法は「魔封の力を解放するもの」…
今回の魔法は「魔封の力を結束させるもの」…
「――だが身に染み付いた恐怖をつる事はできない」
カオスの爪が額に触れた気がした。
瞬時に抉られたような痛みを覚え視界が暗転する。
後悔の記憶が走馬灯のように流れ始め終わらない。
輪廻。
『裏切り者』
『心臓もさ、ドクドク言ってんだろ?なぁ、聞こえるよな?』
『ではおぬしが……5分間で100人以上の帝国兵を暗殺した帝国の兵器』
『ジュンさんに聞いたの……には操りの輪はついてなかったって――』
『憎い憎い憎い――お前は私だけの物のはずなのに。こんなにも愛しているのに』
『同じ双子なのにどうして君ばかり苦をするのだろう』
『答えろよ!!』
見過ごせない、事実。
心を映し出してくる鏡のよう。
潰されてしまいそうになる――