きみと、 29















そこには一筋の光も許さない漆黒の闇が広がっていた。









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まるで眠っているように不確かなのに、現実の今に自分はいる。


自分、そして仲間たち。


無限に広がりを持つ闇のどこかに彼らはいるのだろう。


こんなにも濃い闇の中では自分の場所さえ見失ってしまう。




『僅かな光も見えない、これが完全な闇――』




ウォーリアの声が響く。


少しエコーを聞かせて闇に消えていく。


全てはなかった事になる。




『オレ、消えちゃったのか』




ティーダが続く。


闇を体験して不安と躊躇に心が揺れる。




『オレたちがいなくなったら、あの世界はもう――』


『このまま――何もできずに終わるのか?』




バッツ、そしてスコールさえも。


繰り返される言葉。


ループ。




―― ドクン




何かがゆっくりと覚醒した。


長いまつげが持ち上がり闇へと視線を凝らす。




『いや!終わりたくない』




オニオンナイトの声が響いたかと思うとまるで波紋が広がっていくように光が溢れ出した。




『戦ってわかったんだ、どんな絶望の中でも――』




中心から外側へ。


11のクリスタルが主を元いた世界へと導いていく。




『諦めたらダメなんだ!』




それぞれの手の中にクリスタルが落ちていく。


全員が目を覚ましたそこは何の変哲もない秩序の聖域だった。


混沌の闇に堕ちた様子を一切残さない残された平和の部分だけだった。


仲間たちは再びこの世界で覚醒して、そして、手元にあるクリスタルを見つめる。




「これは、コスモスが?」




ティナが自分のクリスタルを抱きしめながら言う。


そしてコスモスが最後に言い残した言葉を思い出して静かなため息をついた。




――彼らが知るべきは真の闇




あれが、真の闇。


虚空の中には何もない。


自分の姿さえ見失ってしまうほどの深い闇。


声さえ相手に届いているか分からない。


もしあの時――


クリスタルの光が導いていなかったら自分たちはきっと……




…?」




ジタンが思わず言葉を漏らした。


仲間たちの視線が彼へと集い、次第にそれは彼の見つめている先へと向かった。


最も強く光の集まる場所。


彼女のクロスのクリスタルが、光と共鳴しあう。


ドクン、ドクン。


鼓動さえ振るわせる何か。


温かい光。


母に抱きしめられるような感覚だった。


思わず涙が零れ落ちる。




ジタンがそっと歩み寄る。


近くで見ると彼女はトランス状態で何かを祈っているようだった。


指を重ね、瞳を閉じ、慈悲深い笑みを絶やさない。


神々しさすら備えたその光景はコスモスに似た力を持っているように感じた。


きっと――


コスモスは消える間際。


残った最後の力を彼女へと注いだのだろう。


そして。


その力が彼らを真の闇からこの世界に再び転生させてくれたのだろう。


託された力。


聖人へと受け継がれた。


だから、もう一度ができたのだ。




――たとえ本人の意識が途切れていたとしても。




「ッ!」




の体が傾くのと同時にジタンの表情が一気に歪んだ。


混沌の神にあれだけのダメージを受けた後だ。


こんな短時間での回復なんて期待できない。


例え転生された後であっても、の体には深い傷が残っているし、


意識もしばらくは戻る様子ではなかった。





横たわる彼女を起き上がらせるようにして抱きしめる。


浅い呼吸と必死に命を繋ごうとしている鼓動を感じ取って、


ジタンはようやく安堵の息をこぼした。


ティナ、オニオンに続いて仲間たちが彼女の周りへと集まってくる。


真っ先にティナは回復魔法を唱えて治癒の作業を始めた。




「ったく…一人で無茶しやがって」


「ねぇ、ティナ。大丈夫そう?」


「…。私の持つ魔法の力で外傷は治せるけど」


「けど?」




ティナが肩から腹部にかけて一線にできた傷跡に手をかざしながら応える。


彼女の曖昧な言葉にジタンは眉をひそめた。




「カオスに傷つけられた心は――私じゃ和らげる事しかできない」


「…??それ、どういうことだよ!」


「…ティナ。説明してくれないか?」


「……」




戸惑いを見せるジタンを抑えて、フリオニールが問う。


ティナは一度俯いて、そして言葉を紡いだ。




は今――」


『――戸惑ってるって事だよ』




凛。


聞き馴染みのある声が鳴った。


声のした場所には閉ざされた闇の世界からやってきた“堕人”の姿があった。














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