きみと、 30
二種類の驚きの表情が彼へと集う。
ひとつはにそっくりな存在について。
そしてもうひとつはどうしてこの場所に彼がいるのかという事について。
ジタン、スコールそしてティナは後者。
残りは全員前者であった。
面白い事好きのの兄。
それぞれの反応にクスリと微笑んで見せた。
「さっき、真の闇へ来たでしょう?その時光に起こされて…ついてきちゃいました」
「ついてきたって…お前なぁ」
「ふふ…」
やわらかい微笑が彼女そっくりだった。
ジタンが思わず呆れ、それが予想通りだったのか、
彼は子供っぽい笑みを絶やさない。
「それより!どういうことだよ、!」
「“戸惑ってる”というのは?」
「…。カオスに触れられた心が今酷く乱れているのを感じます。
こればっかりは彼女自身が克服するしか他はないでしょう」
「じゃあ俺達は見てるだけしかできないってことか?」
「…ええ。でも、皆さんは皆さんでできる事もきっとあるでしょう。
皆さんは自分のことを。それらが終わったころには、
彼女もきっと目を覚ましている事でしょうから……」
それまでは僕が傍で見ていますので、安心してください。
なら滅多に使わない敬語口調がそのまま耳に残る。
そして大人びた雰囲気が強く、言葉の一つ一つに大きな説得力があった。
そういった彼の懐かしい雰囲気にティナが目を潤す。
自分の片割れの傍に彼女の姿を見つける。
「ティナ…」
「…生きていたんだね!」
ティナが彼の胸元に飛び込む。
一瞬が受け止めようと腕を伸ばして、そして、悲しそうにそれをやめた。
温かい胸板には触れずにティナの体は彼を通過してしまう。
するり。
まるで風が通ったような無意味な味。
重なった部分には何の感触も残らない。
例えるなら影。
その場所にあるのに、触る事ができない。
触れて、感じたのは地面の温度。
彼じゃない。
受け止められる事のなかった彼女は目を見開くしかなかった。
そしてティナの体はの奥にいたオニオンナイトによって受け止められる。
顔をゆがめたティーダ。
ティナ、そして彼自身も。
「違うんだよ、ティナ…」
息が止まる一瞬。
現実との対面。
ひっそりと、そして静かに歩み寄ってくる。
すぐ傍で立ち尽くしているもの。
リアル。
「僕はもういないんだよ」
はゆっくりと振り返ってこれ以上ないほど寂しそうに笑った。
その言葉にはティナを含めた全員が驚きを示す。
ジタンに関しては目を伏せるだけだった。
「嘘…」
「本当。…今君達が見えているこの姿は最後に残った僕の意識の一部…。
――時期に消えてしまうんだ」
「…ッ」
ごめんね。
悪くもないのに謝る彼。
だって。
彼女が今にも泣いてしまいそうだったから。
泣き顔なんて見たくなかったから。
もうこれ以上は。
は触れるか触れないかの位置で彼女の頭に手をやった。
よしよしと撫でる仕草をするものの触れた感触はないのが現実。
ティナは彼の気持ちにこたえるように小さく頷いた。
表情を緩める。
そして話を続けた。
「――だから僕は、消えてしまう前に務めを果たしに来たんです」
「務め?」
「ええ。との決着をつけること」
「!?」
「実の妹と戦うというのか?」
「それも仕方ない。僕はと戦う宿命の元、存在している」
悲しい存在理由だとしても。
例え彼女がそれを望んでいなくても。
自分はそうでしかここにいられない。
彼女の隣にいる事はできない。
もう、全てが遅いんだ。
輪廻。
混沌の闇。
ちっぽけだと言われても構わない。
「再びこの地に導けるように、コスモスは皆さんに
そのクリスタルを与えたのでしょう?」
「でも彼女を滅ぼしたのは僕らだと――」
「だったら――真実を確かめよう。…そういうことだろう、」
フリオニールに微笑を返す。
ようは肯定。
バッツが手の平に拳を叩きつけた。
「何故コスモスが消えたのか。おれたちは消えるしかないのか
――奴らから聞き出すんだ!」
「奴らの好きにはさせない」
全員が頷き、それぞれの道を見つめ、歩き出す。
それぞれの方向へ。
それぞれの場所へ。
それぞれの決着を果たしに――
一人、彼女の事を名残惜しそうに振り返ったジタンに
は静かに頷いて返した。
ジタンは沈黙したまま頷き返して自分の決着の場所へと進みだす。
ジタンが強くコブシを握り締めた。