きみと、 31















終焉への余興が始まった。


輪廻が続く未来が脳裏で何度もループされる。


忌々しい映像。


これが現実?


これが未来?


これが私たちが望んでいたもの?




自分の中の“調和”が微笑んだとき、目を覚ました。









 +









おはよう。




耳の奥でなった気がして覚醒する。


一面に広がる白が思わず戦いの終わりを期待させた。


一瞬の期待が告ぎの瞬間低落してしまう様に苦笑する。


めいいっぱい肺と脳に酸素を取り込んでクリアにする。


見たところ周りに敵もいなければ仲間もいないようだ。


けれども肩に残る僅かな傷痕から、カオスとの接点が


夢でなかったことを改めて思い知らされる。


これが夢だったら、なんて。


呆れて笑ってしまう。


バカらしい。


いったんそこでため息をつくと、ふと真顔に戻った。




「隠れてるつもり?兄さん」


「あぁ、気付いてたの。思いふけてるみたいだったから邪魔しちゃあれかなと…」


「へんな気遣い」


「五月蝿いなぁ。せっかく僕なりに気を使ってあげたのに」


「心配性。――僕はそんなにもろくないっつうの」


「全くこの子は…口が減らないんだから」


「相変わらずだろ?」




クスクスと微笑む。


上半身だけ起き上がって秩序の聖域に座り込む


背後に感じていた兄の気配が動いたかと思うと、


背中をあわせるように座ったようだ。


当然触れた感覚はない。


目を閉じてしまえば存在さえあやふやになってしまいそうで。


正直、怖い。




“これから”しなければいけないことを放り出すような姿勢に


は変わらないな、と表情を緩めた。




「で?いつはじめるの?」


「んー?」


「しらばっくれちゃって。“決着をつけるため”にわざわざ戻ってくれたんだろ?」


「そうだっけ?」


「うん」


「妹よ、そんなに兄と戦いたいのか」


「…。ふざけんなよ?」




すこし苛立った声を出した


ピリ、と空気が変わる。


魔力の波が乱れたせいだ。


は怖いなぁ…と苦笑しつつも悪びれた様子はなかった。


はそれから沈黙した。


どうやら完全に気を損ねたらしい。




(戦いたいわけ…っ)




ない。


そんな事、望んでなんかないのに。


冗談であってもそんなこと言ってほしくない。


は無意識にうちに唇をかんでいた。


言葉さえも見失ってしまう。


嗚呼。


何でうまくいかないんだろう。




「僕なりに考えたんだけどさ――僕ってもう死んでるわけだろ?」


「…、」


「このまま僕たちが戦いあったとしても傷つくのは君だけ。


 …当然だね。だって僕にはもう肉体がないんだもの。


 けれども僕は君を傷つけることは多分できるだろう。


 皆無っていってもいいけど。




 混沌の回廊が始まった今、僕の肉体は闇の狭間に置き去りにされたまま…


 精神状態の今の僕が君の手助けになるようなことは


 できないと思うんだ。――否、多分知っていたんだね。


 ――僕はもう、この世界では用なしなんだって」




用なし。


その言葉に酷く反応したのはのほうだった。


消えてしまう気だ。


直感的にそう思ったのだ。


消えてしまう。


存在が薄れていってる。


そんなの…望んでなんかないのに。




「振り向くな!!」


「――っ」




背後の存在を目で確かめようとしたとき、


が怒鳴り声を上げた。


滅多に怒りの感情を表さない、温厚な兄が、初めて…


不安がやがて確信につながって、は目に涙をためた。




妹は立ち上がり空を見上げるようにして泣いていた。


兄は座ったまま空に目を背くようにして微笑んでいた。


背中合わせ。


思い返せば、生まれたときからそうだったんだ。


僕たちは何もかも、正反対だったんだ。




「最低な兄だって、わかってるよ」


「…」


「振り返って、今にでも抱きしめてあげたいのに、


 それすら叶わないんだもの……」


「…兄、さ……っ」


「…。嬉しい…ょ…最後…兄さ……って呼んでくれ……事」




頬を濡らすのは涙。


やるせない感情が押し寄せる。


片割れが消える。


還っていく。


僕を置いて。


僕を残して。




“ 本当に、君は一人? ”




「…!」




“ 振り返るな、前を見てごらん ”









“ 仲間達が、待っててくれているから―― ”









光の粒が、昇天する。


召されていく。


この世界ではないどこかへ。


でも――生きている気がした。


自分の中の調和の光が穏やかに微笑んでいるから。


背中からぎゅって…包んでくれてる気がするから…




“  待ってるよ、君が、帰ってくるのを  ”














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