きみと、 34
やっとわかった。
この世界に僕が呼ばれたわけが。
ずっと考えてたんだ。
僕一人だけが浮いてる気がしてならなかったから。
僕一人だけが不要だったんじゃないかって不安だったから。
秩序の聖人。
聖人…つまりは導く光をもつもの。
皆を導くもの。
そして、見届けるもの。
終わりを。
全てを。
さよならも、見届けるんだ。
+
神が罰を与えるように、裁きを下していく。
混沌の力は空間全てを巻き込み戦士達に襲い掛かった。
それに臆することのない戦士たち。
誰一人として逃げ出すものなどいなかった。
一人は光と正義を信じ。
一人は描いた夢と平和を信じ。
一人は誇りを信じ。
一人は希望を信じ。
一人は童心と探究心を信じ。
一人は内なる力を信じ。
一人は自分を信じ。
一人は仲間を信じ。
一人は未来と帰る場所を信じ。
一人は可能性を信じ。
そして一人は約束と皆の覚悟を信じた。
金属音がぶつかり合う。
大地が砕け散り、悲鳴を上げている。
煉獄の炎が柱のように燃え上がり、戦士達を薙ぎ払う。
先程まで荒れ狂っていた風が今では穏やかに感じた。
頬を撫でるように優しげな風。
薄暗い雲間が割れて光が差し込んだ。
光を導くは聖人。
指を重ね秩序を維持する。
仲間達が混沌に飲み込まれてしまわぬように祈りをささげる。
光に紛れて羽根が降り注ぐとそれはカオス以外のもの全てを治癒した。
目が眩むようなその一瞬。
光の筋にコスモスを感じたカオス。
穏やかに微笑みを絶やさない。
指を重ねて天を見上げ祈りをささげるその姿は
まるで聖母のような輝きさえ身に纏っていた。
神秘のヴェールでも纏っているかと思わせるくらい、
この混沌の果てから酷く浮いて見えたのだ。
「 コスモス―― 」
コスモスの姿に見せたそれこそが幻想。
終焉が近づき、夢幻を見せた。
幻。
夢。
現(うつつ)。
それは本人だというのに――
そのときは慈愛に満ちた表情を見せた。
「私は望みます――秩序と調和を」
「私は祈ります――世界の平和を」
「私は受け入れます――混沌の輪廻を」
「私は知っています――哀しみの末路を」
「私は誓います――人々の笑顔を」
「私は愛します――仲間達の未来を」
幻想に終焉は無い。
永遠に語り継がれる究極の幻想から、
これはたった一度だけ語られる“異説”である――
悠久の果てしない争いを続ける
調和の神コスモスと混沌の神カオス。
二対は象徴であり均等、
何より全てであった。
だが破壊者たちの暴挙が均衡を崩し、
世界は混沌で覆われてしまう。
世界に残された僅かな希望は、
コスモスに導かれし11人の戦士。
彼らが紡ぐ世界の可能性の物語。
幻想に限定された形は無い。
世界の時間が止まった。
瞬きをするのさえも惜しい刹那。
神々が望んだ終焉。
長き幾戦の末
ようやく異説は
ピリオドを打たれたのだ――
+
「これがお前の残した力か」
戦いは終わった。
戦士達は半強制的にこの世界からもとの世界へと帰されていく。
もうこの世界には用なしの存在だ。
僅かに息を残す混沌も、時期に静かになることだろう。
「神々の闘争は終わった。消え行くさだめの者どもよ――還るがいい」
一人、また一人と戦士達の姿は消えていった。
コスモスの残したクリスタルに導かれるようにして。
そして――
残されたカオスは煉獄に包まれるようにしてその姿をかき消した。