クオル














 いつか夢見た天罰の剣














ブク、と水中で泡が上へと上る。


それは彼女が呼吸をするたびにマスクの端から空気が漏れているのだった。


膝を抱えてその水中を浮遊する少女。


目を閉じている。


意識は無い。


おそらくこの中にいるときの記憶や感覚といったものもないのだろう。


ブクブク…


長い黒髪が水に揺れた。




「ごめんな、」




同じ黒髪の青年が呟いた。


少女へと。


届くはずはないのに。


わかっているのに。




「ゴメンな、本当に、ゴメン」




ガラスに掌をくっつける。


つめたいひんやりとしていた。


ブクブク…


泡がまた上る。




「何度でも、言いにくるからな」




ゴメンな、


ゴメンな、




ゴメン…な?









 +









ざわりと鳥肌が立った。


ゆったりと生暖かい舌でなぞられるような感触。


それが脅えに変わる頃、は存在を悟った。




「ケフカ様……」




振り返るのと同時に抱きしめられる。


柔らかい衣服が自分のと擦れる。


肌に触れる。


恐怖心から身を縮めてしまう。




「最近はクオルの奴と仲がよいようですね……」




何の前置きもなくケフカはたずねるような口調で言った。


は瞬時に彼の言いたいことがわかった。


仲がいい……


つまりは、




“ 気に入らない ”




「そんなこと、ないです……」


「私に反抗するおつもりで?」


「そっ、そんなこと……!」




ない。


最後までつむぐことは出来ないままに終わる。


いってしまえば最後なきがして、


怖くて、言葉が消えてしまう。


足が竦む。




「奴のこと愛しているのですか?」


「あい、してる……?って、何ですか……?」


「ん?あぁ…、貴方がお兄さんや両親に懐くような気持ちのことですよ」




わかるでしょう?


そっと囁かれて気づく。


ここで肯定すればきっとケフカの機嫌は悪くなる。


自分の意思に関係なくこいつだったら簡単に消そうとする。


独占欲がどうだとか、今の


知るすべはなかったが、それでも否定しておかないと


クオルの身が危険になる。


は思い切り首を横にふった。




「いい子ですね、。それでいいのですよ?


 貴方に人に愛される資格なんてないのです。解りますよね?」


「は、い…」




口の端をグイと引き上げてケフカは薄く笑んだ。


は俯いて生唾を飲み込むことしか出来ない。


それほどまでにケフカという存在は大きいのだ。




「では、行きましょうか。貴方にしてもらいたいことがあります」


「はい…」




消え入りそうな声で呟いた。


促されるままにはケフカとともにいくつかの扉をくぐった。









 +









今まで入るな、といわれていた部屋に始めて踏み入った。


そして、目を見開く。


「あ」と思わずこぼした。




「貴方のことですからもう気がついたでしょう?」




開いた口が閉ざされる事はない。


小さくは嫌々をした。




そこにはたくさんの人間がいた。


アーマーやソードを装備している。


帝国兵だ。


はすぐにわかった。


ざっと見積もって100。


…いや、それ以上だ。




暗い室内だった。


明かりが切れかけている電球が数個だけだった。


せまくもない広くもない広さ。


冷たいコンクリートと鉄の匂い。


悶える声で交差する音。




「さぁ、殺すのですよ、


「――!?で、きまッ……」


「できないと?貴方なら朝飯前でしょう……ヒッヒッヒ」




の視線はそちらに釘づけだ。









「出ないと貴方が      」









脳裏に刻まれた刹那


恐怖の支配


抑制が効かない


理性が負けた


ソードに細指を絡める


嘲笑が聞こえる


ヒステリックな悲痛な笑い声


それが最後に聞こえた音だった


あぁ、


だって僕は、


私は、









まだ死ねない――














廻れ、




廻れ、




踊り狂え、




酔狂のワルツ




誰か一人が残るまで、




最後の一人が消えるまで、









いつか夢見た天罰の剣














(クオルクオルクオル……)


(タスケテ、)





続きます。

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