違うよこれは涙じゃない














「悪いな、ストラゴス…。わがままを言ってしまって…」




遠慮がちに言うにストラゴスは




「気にせんでいいゾイ。わしに出来るのもこれくらいじゃからのう…」




と言ってくれた。


ありがとうと、微笑を返す。




せめて今だけは…









 +









ここはサマサの村。


魔導士たちの村。




旅の途中、立ち寄ったこの村のある場所にの姿があった。


その場所…今作り上げたふたつのお墓の前。


勿論それはの両親、コーリンとセラフィムのもの。


ストラゴスに頼み、このサマサの村に2人のお墓を作らせてもらったのだ。


形だけの…だったが。




「…遅くなっちゃったね。ごめんね…?父さん、母さん……」




簡素なつくりの墓石の前にさっき買った花を供える。


帽子を外して胸の前へと持っていき、


目を閉じて二人を冥福する。


初めに出てくる言葉は“ごめんなさい”


そして…









「最後まで…私のことを信じてくれてありがとう…」









先ほどまで晴れ渡っていた空に雲がかかる。


段々と空を覆っていき、蒼を隠してしまった。


何かの拍子に泣き出しそうな天気だ。




「先客か……」




背中のほうから聞こえてきた声には振り返る。


少しづつ距離を縮めてくるのはシャドウだった。


片手には一輪の花を軽く握り締めている。


どうやらお参りに来てくれたらしい。




「その花…」


「奴が好きだった花だ…。やはり似るものだな…」


「…ホント。どれが好きかわからなかったから…自分が好きな奴選んだつもりだったのに…」


「それでいい」




差し出されたそれと、が置いた花は同じものだった。


は小さく笑んでから再び両親のほうを見据える。




「僕…、いつももらってばかりで…。何も返せてないや……」


「…。否、そんなことはない」


「?」


「それに…これから返していくというのも有りだと俺は思うがな…」





これから…




シャドウの言葉にが俯いた。


とうとう空がしとしと泣き出して、雨が大地に降り注ぐ。


俯いたはシャドウの位置から見ると泣いているように見えた。




「返して…いけるかな、僕に……」




空を見上げた。


溜め込んでいた息を吐き出すと少し楽になった気がした。




「泣いているのか…?」




開いた口を閉ざしてシャドウの顔を見る。


精一杯な笑顔で、笑った。









「雨だよ、きっとね…」














(前に進むために、涙なんていらない)
inserted by FC2 system