ああ僕は今泣きたい気分だというのに














街中で見つけたほほえましい光景。


風にさらわれた風船が木の枝に引っかかっていた。


その気のふもとで見上げているのは、


女の子と、女の子よりも少し大きい男の子。


兄と妹。


そしてぐずっているのは妹のほうだった。


困ったようにあたふたしながら、兄のほうは


木の枝にかかった(風が吹いてしまえば飛ばされてしまいそうだ)


風船へと目をやる。


妹とを交互に見やり、そして意を決したように唇をかんだ。




ついつい目を奪われてしまったその光景を


何をするわけでもなくは見つめ続けた。









 +









『お兄ちゃん…』




ひっそりと潜む暗闇の中。


はドアの隙間から兄の様子を伺う。


時間は当に子供の寝る時間を過ぎているのだが、


はまだ寝れずにいた。


身に纏わりつくような闇がもっともを怯えさせるものなのだ。




『ん……、寝なくちゃダメだよ、


『だって……』


『でもママに一緒に寝ちゃダメだって言われてるし…』


『どうしても、だめ?』




泣き出しそうな声で兄にせがむ


兄はちょっと思考した後諦めたように


シーツの裾を持ち上げた。


途端に表情が明るくなる妹。




『しょうがないなぁ…』


『えへへ…。ありがと、お兄ちゃん』




明日は「僕が呼んだの」ってママに謝らないと…


とニコニコしながら自分のベットへと入ってくる妹を見ながら思う。


あったかいね、なんて言って表情を綻ばせる


まぁ、いいか。


なんては思った。


この子の笑顔が消えないのなら。


ずっと守ってあげられるのなら。




僕を大好きでいてくれるのなら……









 +









ありがとう、お兄ちゃん。




という女の子の声にははっとなる。


白昼夢を見ていたかのようにぼんやりとする視界。


飛ばされた意識で見ていたのは自分の過去。


大好きな兄の姿。


ほほえましい光景。


もう、ないけれど……




……?どうしたんだい?」




後ろを振り返ればエドガーの姿。


少し心配そうな顔をして自分の顔を覗き込んでいる。


その問いにが答えられずにいると、


の向こう側にいた兄弟の姿を見つけて、


エドガーはふっと笑った。


やさしいお兄さんの眼差しで。


私の大好きな――……




「よかったね」




ああ僕は今泣きたい気分だというのに




君はそうさせてくれないね。














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