本当は、君が羨ましかったんだ














『手を貸そうか?』




初めて君に言われた言葉は今でもちゃんと覚えている。


否、「初めて」はもう少し前、かな?


だってあの時…ナルシェで会ったのは初めてじゃなかったから。


視界を上から下へとよぎる銀。


それを見てすぐに気がついた。


君は覚えてはいないかもしれないけど。


本当はずっと前にあったことがあったんだ。


帝国にいたときのお話。


私が…帝国から――


みんなを捨てて逃げ出そうとしていた日。


自分を血眼になって探している帝国兵から逃げ切ることは簡単。


あいつらじゃ相手にならない。


私は強いから。


アイツがいない今、私を押さえつけられる奴なんていないから。




だから今しかない。




ボロボロになった身体。


ただ走っているだけなのにきしむような痛みが、


体中を走り抜ける。


重い扉を開いたその時、目を焼くようなまぶしい光に


は思わず目を眩ませる。


一心に外の世界を見つめる。


暗くて冷たい内側の世界と


まだ見たことも無い外側の世界。


隔離された、世界。




「だ、れ…」




人気を感じて振り返った


普通に話したつもりだったのに、


声は酷く枯れてしまっていて蚊の鳴くような声だった。


彼をその瞳に映して、そして、見とれてしまっていた。


見たことも無い彼はとても新鮮で、とても羨ましかった。


銀髪の瞳。


藍色のバンダナ。


驚きを隠せないでいる褐色の瞳…




「君はこんな所でなにを―――」




『こっちから声がしたぞ!!』


『逃がすな!!』




「―――やべっ!」




彼の声が内部で響いたらしい。


それを聞いた兵が近くにいた兵と連絡を取り合う。


…青年が見つかるのも時間の問題だった。




「こっち」


「―!?だってこっちは………」




何か言おうとしていたのを遮り、は彼の腕を掴み


口で示した方向へと引っ張った。


引っ張ったのはじめの一瞬。


まるで導いているかのように走る


今の彼女の頭の中には逃げ出そうとしていたときの思いは無かった。


とん、とん…


と軽い足取りで地をける。


この地形に詳しいので躊躇うことなく進み続ける。


振り返ることはしない。


が、後ろで彼がついてきていることは感覚的に確認していた。


ただ彼を逃がさないと、という思いだけで


痛む身体を無視して走り続けていた。









「海」


「……え…?」


「みえるでしょ?」




足を止めたがすっと指差しながら言葉を紡ぐ。


指先をたどるように目を向ける青年。


の指差したその場所には海が見えた。


広大に広がる海。


澄んだ蒼。


空を映している。




「ああ…」


「其処を目指して…。今日中にはアルブルグにつくよ」


「ありがとな……いろいろ…。俺はロック…!君は……………あれ?」





ロックと名乗った青年が最後まで言い終わる前に、


は姿をくらましていた。


一人になったロックは何事かを呟いてから、


海のほうへと足を向けた。









「ロック…か」




ふぅ…と息を吐き出すと荒かった呼吸が一気に解消される。


少女は振り返ることなくある場所へと足を進めた。


扉を開き、目的の人物を視野にいれ膝をつきなら頭を下げる。




「あなたなら戻ってきてくれると思っていましたよ…。

 それにしても…どこに行っていたのですか?」


「………。申し訳ありません、ケフカ様」


「…。まぁいいでしょう。しかし次私には向かって御覧なさい…


 君の大事な兄が無残な姿になるということを…


 しっかりと覚えておきなさい。……




はい。


虚ろで…それでも光をしっかりと携えた視線が、


あごを持ち上げられる形でケフカとぶつかる。


頬を撫でる冷たい指先には無表情で貫き通すと、


たった今であった青年を思い出し目を閉じる。









 +














初めて出会ったとき。


感じたこと。




「ん…」




彼の持つ自由な雰囲気のせいかもしれない。


君を、


僕はどうして助けたのか。


ずっと疑問だった。


ずっと考え続けていた。


君にまた出会うまで。


僕…本当は、




「おはよ、









本当は、君が羨ましかったんだ。














(どうしたんだ?)(…ううん、なんでもないよ。ただちょっと夢を見ただけ) inserted by FC2 system