ありがとう、どうしてその一言が言えないんだろう















「どうしよ…。……どうしたらいいかな?」




ぐちゃりと今にも泣き出しそうなをみて、


つられて零れ落ちそうになる涙をぐっとこらえた。


ふるふると首を振ってから、パッチリと開いた瞳で


彼の手の中にいる一羽の小鳥を覗き込んだ。


見たことのない形をしている。


怪我をしている。


苦しそうだ。


……幼い二人にが解ったのはそれくらいだった。


そして後もう一つ…




「向こう側からきちゃったのかな…」




向こう側の世界。


それは長老の命と引き換えに封印された扉の


さらにその奥にあるという見たこともない世界。


周りの幻獣たちの話を聞く限りではあまりいい世界ではなさそうだ。


でも、そのことを父に言うと少し悲しそうな顔をしたのを覚えている。


……人間界。




「返してあげなきゃ……向こうに」


「でも、だって……」


「わかってる。今はまだ返してあげられない。


 怪我してるし、このままじゃきっと死んじゃうよ……」


「―――し、!?」




大きく開かれた瞳。


その直後はぼろぼろと大粒の涙を流した。


必死に声を押し殺しているようだがえぐえぐと喉が鳴る。


が見るに見かねて両手を差し伸べた。




「だからね、ちゃんと元気になったら返してあげよう?


 それまで僕たちがこの子を看病してあげよ?


 ほら、が転んで擦りむいたことあったでしょ?


 そのときママがしてくれたみたいにやってみようよ。


 それでちゃんとこの子をおうちに帰してあげよ?


 きっと出来るよ、僕たちなら。僕たち二人なら。


 ね?。やってみようよ」




… ケアル …




ね?


下手くそな魔法で小鳥を癒す。


すぐさま眉をひそめたのはそれがあまりにも


無意味に近いものだったからだ。


微力すぎて気持ち程度の回復しか出来ていない。


はきゅ、と自分の唇をかんだ。




「小鳥さん元気になる?」


「え?」


「またお空飛べるようになる?」




翼を傷めて苦しむ小鳥を見て


ポツリ、ポツリと呟くように言った。


の顔を自分の服の裾で


ごしごししてから息がかかる距離まで顔を近づけた。




「うん!絶対なるよ!!」




ぱ、との表情に光が差し


やや乱暴に顔をごしごしと拭いた。


半べそをかきながらもこくりと頭を縦に振った。




「だからこれは、僕たち二人だけの秘密」




にっこりと微笑んだ


そして少し照れながらの頭をわしわしと撫でてあげた。




「お兄、ちゃん………?」


「ん?どうしたの?




服の裾を握ってはいった。


するとは小首をかしげながら彼女の顔を覗き込む。


その優しさに言葉は飲み込まれてしまった。




「うう、ん…なんでもない、」


「…そう?ならいいけど……」




そういっては余計な詮索はしないで


の手を握った。


もう片方の手は大事に小鳥を抱き抱えている。


は彼にそっと寄り添った。









ありがとう、どうしてその一言が言えないんだろう














(それはきっと兄さんのせいだ)

(いつだって優しい兄さんにいつも僕は…)




(ちゃんと、わかってるよ)
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