今頃気付いた?僕は独占欲が強いんだよ














もし


僕が


道を踏み外すようなことがあったら、




そのときは、




ロックが僕を殺してね――









 +









「三割り増しに不細工な顔してるね」




朝起きて早々彼女は皮肉を零す。


大体の彼女の嫌味は真顔で淡々というパターンと


ニヤリと笑いながらさらりとこぼすときの二つがある。


…ちなみに今回のは後者の言い方だ。




「朝から感じの悪いやつだな」


「それも結構酷くない?んじゃあ、お互い様ってコトで」


「……勝手に括(くく)んなよ」




いくらかノリの悪いロックを見ては小首をかしげる。


少し俯きがちな彼を視線の高さを合わせるようにしゃがんで、覗き込んだ。




「何かあった?」


「ん?」


「考え事??今日はちょっと変」


「そうか?」


「うん」




最近では男の子のような低めの声で話すことなんて皆無に近い。


帝国との縁を切り、リターナーに入ってからは


割と子供じみた口調や声で話をすることが多くなった。


ああ。


今思い返せば。


彼女の中で気持ちの整理がついたのもそのくらいの時期だった。


とくに、ティナやロックと話すときに関しては取繕いのない


有りの儘の彼女で接してくれる。


考え事のほうへと意識を飛ばしていたロックは、


不思議そうに見上げてくるに気がついてはっとなった。




「たとえばの話なんだけど、さ」


「うん。何?」


「もし…さ」


「うん」


「………」


「………?」


「………やっぱヤメタ。重いし」


「え?このタイミングでやめちゃう?」




気になるな。


はしかめっ面をした。


じぃ、と見て、続けろと諭す。


少しして渋々とロックのほうが折れた。




「もしオレが、お前の敵側に回ったとして……」


「ないね。ロックは裏切らないよ」


「…、そういうことにするだろ?それでオレは皆に刃を向けなくてはいけなくなった、と」


「それもあんまり考えられないね。……それで?」


「あぁ。それでもしオレがどうしようもなくなって…本当に、特別な理由で、


 皆に…手を下さなければいけなくなったときは……


 がオレを殺してくれ。……って言ったら、どうする?」


「………」




彼女の反応は期待通りのものだった。


唇を薄く開いたまま黙り込む。


それから口をつぐんでロックの目をじっと見る。


からかっているのか、そうではないのか、伺っているような目だった。




「……誰かに、言われたの?」


「まぁな」


「誰に?」


「お前」


「言ってない」


「違う、夢でだよ」


「…そんなのずるい」




に言われた。


確かに言いそうな言葉だったから否定することもできずにはまた黙った。




「それが、朝からずっとボンヤリしてる理由?」


「…さぁ?」


「………」




言葉を濁して、ロックは逃げた。


距離的なものではなくて、言葉で突き放した。


は困った風だった。




「もし、そういう状態にもしなったのなら、」


「もういいよ」


「僕はロックに、」


「いいって」


「殺してほ――」


「いいって言ってるだろ!!」




殺してほしい。


最後まで言わせなかったのはそれを現実のものにしないためだ。


正夢にならないように。


しないように。


ロックは言葉を振り払った。


は眉をひそめながらもそのことをよく理解する。




「ごめん……怒鳴ったりして」


「ううん、僕のほうこそ、ごめんなさい」


「………」


「ねぇ、ロック。さっきのロックの質問なんだけどさ」


「忘れろって、」


「ねぇ、聞いて?お願い」




ちょん、と両手を重ねてロックの膝のところに置いた。


聞いてほしいな、という彼女なりのおねだり。


ロックは気が進まなさそうに頷いた。




「ロックがもし皆に手を下しそうなコトになった時ね。


 僕は絶対ロックを止めるよ。……とめてみせる。


 ……だけど、僕は、僕なら、殺したく、ないな……。


 こんな事僕が言うのって、とても変だけど」


「……甘いな。」


「…。ならいいよ、甘くて。僕が殺したくないって言ったら嫌なんだ」


「はは。そっちのほうがずるい」


「へへ…」




お互いにつられるように微笑む。


は得意げだった。


それから彼女は真顔で淡々と言った。









 今頃気付いた?僕は独占欲が強いんだよ 














(皆守りたい、皆傷つけたくない、皆笑っててほしい)


(甘いって言われたって、僕はそれを望むだけ) inserted by FC2 system