セッツァー














 このまま遠くまで、時間の許す限り









わが身に宿りし“ 魔封 ”の力


今、汝等の前に姿を現さん



刹那の時を封じられたものたちよ


永久の呪縛を約束されたものたちよ


黄昏の翼を掠奪されし哀れなものたちよ




我の声を聞け


我の声に応えよ


我の問いかけに従え




わが身に宿りし“ 魔封 ”の力


今、汝等の前に姿を現そう




魔導師、魔を導くものならば


魔封師、魔を封ずるものなり


我は魔封師の血を引くもの




名をと申さん


そして我等魔封師、この地に再びはせ参じる時




汝等に言葉を刻もう









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難解なスペルの羅列。


無表情、そして虚ろな瞳で言うのはだ。


飛空挺の甲板のお気に入りの場所を見つけたらしく


ここ最近の暇な時間は大抵ここですごしているくらいだった。


日当たりがよい場所。


風が体中を撫で回していく。


どの方向を見ても見える地平線。


空と海、もしくは陸との境目が見える。


平穏な日々。


平穏な陽気。


見下ろした町の人々も笑っている人が多くて嬉しくなる。


けれどその反面、今笑っている人と同じくらいに


世界や国や家族のことを不安に思い


恐怖しながら毎日を過ごしている人もいる。


その両方が、この飛空挺の場所からなら見渡すことができる。




「――、―」




呟いているのは先ほどから何度も復唱されている言葉。


それらはとても複雑で聴いた瞬間思わず


眉を潜めてしまうような内容だった。


古代の言葉、だろうか。


表紙の摺り切れた黄ばんだ本なんかに書かれていそうだ。




「――っと、誰かと思えば」




良い場所を見つけたじゃないか。


そういってセッツァーは、ふふんと笑んで見せる。


は下を見下ろすのはやめて


ちらりと視線だけをセッツァーにくれてやった。




「暇なの?」


「アンタにだけは言われたくないな」


「別に暇ってわけじゃないし…」


「じゃあどうしてこんなところに?」




何となく。


はそれだけ呟いてダンマリした。


高い所も日々少しづつ攻略しつつある


それでもやはり恐怖心は消えないらしく柵から顔を乗り出して下を見ると言う事まではない。


ただただ風の心地よい日向に出て本を読んだり、少しだけ歌ったりと


ちょっとしたくつろぎの場所として甲板のサイドの所に座っている。


戦いに疲れたとき、ここに来ると落ち着くような気がするのだ。




「高い所は駄目なくせに、空は好きなんだな」


「…一言余計だけど。まぁ…好きかな。


 自然に逆らわずにゆっくりと流れていくのって飽きなくってさ。


 そういうセッツァーも、好きなんでしょ?空」


「まぁな」




同じ理由、と言うわけではないが。


はぼんやり考えながら、そう、と相槌を打った、


会話がつまりは再び空を見つめる。


後ろ後ろへと流れていく世界。


前方から向ってくるもの。


未知のセカイ。


しらないもの。


今までは知る事が出来なかったもの。


けれど、今は違う。


知る事ができる。


自分の目で見ることが出来る。


自分の耳で聞く事ができる。


自分の足で進む事が出来る。


感じる事ができる。


それが確かめられる所だから、きっと好きなんだと思う。




(……って、後から付け加えた口実だけど)




ふわり、と笑む。


そんな彼女にセッツァーはやれやれと小さく息を吐いた。


船は進み続ける。




(ずっと……そんな風に望むのはダメなのかな)




そう考えると悲しくて、急に心細くなった。




『このまま遠くまで、時間の許す限り』














(後どれくらい、残されているのかな。) inserted by FC2 system