なんどでも















「みつけた」




夜。


その日は満月だった。


月明かりの下、酒を楽しむ彼女を見つけると捜していたわけでもないのにそんな言葉が出た。


その声に彼女は「なんだ、お前かよ」と言った風な視線を俺へと投げる。


俺はとの距離を縮めた。




「最近見つけたんだ…この場所」


「へぇ」


「…といっても、あっさりと見つかってしまったけどな」




お前に、と不満そうにこぼす。




ずっと飲んでいたせいか、彼女の頬をほんのりと紅い。


月光を全身に浴び、酒を嗜むはいつも以上に色っぽく仕上がっていた。


それは俺の理性をかき乱すほどに…




「どうした…?」


「…いや、なんでもねぇよ」


「ふぅん」




挑発的に口の端を持ち上げる。


どきっ、とした。


彼女の何気ない唇の動きに…


魅せられてた。


いつのまにか。


無意識のうちに。


俺はごくりと生唾を飲み込む。




「今日は無口だな」


「そうか?」


「…まぁ、いいけど」





桜色の髪と同じ色の唇がそっとグラスへと触れる。


かりん、と氷が音を奏でた。




「ロックも少しお酒が入ってるだろ」


「まぁ、ちょっとな」


「なんか好きそうだよね」


「そうか…?」


「うん」




の口からフフ…と笑みがこぼれる。


俺は大切なものに触れるようにそっとに手を伸ばす。


髪。


額。


瞼。


頬。


ゆっくりと降下して、やがて唇へとたどり着く。


やわらかい感触が指先に伝わる。


ん?と上目遣いで見つめてくる


彼女に嫌がっている様子はない。


俺は考えるより先に身体が動いていることを頭の隅でぼんやりと考え、


そのまま誘われるように顎に手を添える。


最後にが目を閉じるのが見えた。




それは、の飲んでいた甘いお酒の味がした。




その感触は思った以上に柔らかくて、それに甘い。


掠めるように触れて、すぐに離れる。


恐る恐る、広げた視界に一番に飛び込んできたのは彼女のきょとんとした素顔。


普段の強張った表情からは考えられないほど柔らかくて、少し幼い。


はっと我に返り俺は、慌てて謝罪の言葉を紡いだ。


否、紡ごうとした。




「あれ…酔っちゃったのかな。クラクラする…」




両手のひらで顔の照れを隠すような仕草をする


指の隙間から覗いているの顔がより赤みを帯びていた。


照れ笑いする彼女に俺は静かに言った。



「今の…さ。忘れてもいいから…」


「…今の?」


「あ…いや、……………うん」




言葉に詰まってあちらこちらに視線を散らばせる俺には挙動不審だと制する。




「忘れないよ」


「…」


「多分だけどね、忘れらんないと思う」


「…悪ぃ」


「何で謝るんだよ…。なんか悪い事したみたいじゃん」


「っていってもな…」


「…。それじゃあさ…」




途中で区切りをつける


当然俺の意識も次の言葉へと向かう。


そんな俺のことなど関係なしに彼女は簡単に言ってのけた。




もう一回してくれたら許してやるよ




まるで面白い玩具を見つけたように、悪戯っぽくいって笑う。


一瞬呆気にとられていた俺だったがすぐに自分の馬鹿馬鹿しさに自嘲する。


ほっと胸をなでおろすように息を吐くと、俺はそっとの耳に唇を寄せた。




答えはもちろん、














[なんどでも] 完
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