情景















ふと気がつけばまた、自分がのほうへと視線を向けていることに気付く。


深緑色の帽子に桜色の髪や、


弱者を放って置けない過度なお人好しな所。


その反面よく人をからかって遊ぶ子供っぽい性格も。




“奴”を連想させる。




脳裏に焼きついた奴の笑顔が…消えない。









 +









「よぉ…」




ここはサマサの村。


魔導士たちの村。


丘にある一本木の麓で、一人の青年が本を読んでいた。


年齢は十代半ばかもしくは後半。


桜色の髪に、深緑色の――中央に赤い十字の刺繍が施されている――帽子をかぶっている。


青年は本から呼び主の方へと視線を持ち上げてにっこりと微笑んだ。




「やぁ、久しぶりだね。今まで何してたの?」


「ちょっと列車強盗をな…」


「へぇ、そうなんだ。お疲れ様」




男…クラウドは当たり前のように隣に腰を下ろす。


ふふ…と青年が笑みを零した。




「怒らないんだな…」


「…悪いことだって言うのはわかってるんだ?」


「つまらない話になりそうだ…」




青年のペースに巻き込まれそうになって、クラウドは遠い目をしながらぼやいた。


笑顔を顔に貼り付けたまま、青年は本をパタンと閉じた。




「でも羨ましいよ。僕はほら…仕事以外でこの村を出た事がないだろ?…羨ましい」


「やめとけ。女顔のお前がこの村から一歩でも出てみろ?一番に襲われるぞ?」


「…にこっ」


「オレが悪かった」




背筋が凍るような黒い笑みを当てられクラウドは即答で謝罪を述べる。


女顔という単語にコンプレックスがあるようだ。


悪びれた様子もなく、青年は声に出して笑った。




「次はいつ会える?」


「わぁ、嬉しいな。クラウド君が僕なんかを誘ってくれてるの?」


「…。だからそうやってすぐ人を担ぐ…」


「あはは…」




笑い声が段々と乾いたものへと変わった。


ふっと真顔に戻る。


自嘲気味に笑った。




「ごめん…当分会えないかも」


「…仕事か?」


「うん…。封魔壁を見にこうかなぁ…ってさ」


「ずいぶん遠出だな」


「うーん…」




唸るように吐き出された言葉。


その表情ともに深刻そうな色。




「だからさぁ…マドリーヌを一人にすることになるだろ…?心配で心配で…」


「お前…本音はそっちか。このシスコンめ」


「大丈夫自覚済みだから…」


「………………………。なぁ?オレはいつになったら口でお前に勝てるようになる?」


「無理じゃない?」


「即答するな、お前が言うと酷く傷つく…」


「ごめんごめん…。クラウドってからかわれ体質なのでは?」


「ほぉ…それは一体全体どういった体質なんだろうな…?」




そのままの意味だよ。


そう付け加えて、青年は薄く微笑んだ。


それはとても柔らかくて本当に女の人みたいに綺麗な笑顔だった。


…本人に言えば間違いなく地雷を踏む事になるだろうが…。




「お前も早く女を見つけろ」


「うーん…とうとうクラウドにも言われるようになったか…」


「俺は真面目に言ってるんだ」


「僕にその気がないだけで、その気になれば…ねぇ?」


「黒いぞ」




真面目な口調で言うせいで真面目なのか冗談なのかわからない。


クラウドはとりあえず制した。


青年は立ち上がる。




「行ってくるよ」




振り返らない彼の後姿は前回見送ったときと同じもの。


歩みを進める青年にクラウドは再度呼びかけた。




「コーリン!!」


「ん?」




「…また…な」




クラウドの言葉にコーリンは一瞬目を見開き微笑む。


ゆっくりと振り返ると唇だけを動かすようにして言の葉を紡いだ。














… 餓鬼 …









 +









それが奴の最後の台詞だったか…。


それはかれこれ20年も前の話。


イコール、20年以上奴とは会っていないという事…。


気付けばおってしまう桜色がすぐ傍に寄ってきていたことに気がついた。


壁にもたれかかる自分に、恐る恐るというふうに顔を覗かせる。




「ねぇ、シャドウ…今暇?」


「…。…なんだ」


「聞きたいことがあったんだ。…シャドウに」




シャドウは先ほどと同じ発言を繰り返した。


は自然にシャドウの隣に座りながら見上げるようにして尋ねる。




「からかってもいいですか?」


「一体全体どんな質問をしている…」




紡ぎ終わった後、シャドウははっとなる。


視線を当てれば呆然としているの姿。


刹那、ニコリ(ニヤリ)と口の端を持ち上げた。




「やっぱりね、シャドウはからかいやすいだろうなぁ…って思ってたんだ」


「…何故?」


「え?うーん…シャドウってからかわれ体質なのでは?」


「………」




違う人物から同じ台詞。


親子にだいで言われた事にシャドウは「そうか…」と呟く事しかできなかった。


静かに息を吐き出すと壁を支えにしてそのまま座り込む。





悪戯を成功させた子供のようにニヤニヤ笑う


シャドウは小さく「餓鬼」と呟いた。














(えぇ!?)(安心しろ、お前の事じゃない)
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