冒険話















「お話?」




飛空挺が青空を優雅に独走する。


甲板に心地よい風がそよぎ、ティナの翠色の髪をなびかせた。


見下ろした世界はゆっくりと後ろへと流れていく――…




昼下がり。


ティナの問にロックは第一声を上げた。


聞き返すといったよりは確かめるといった表現が近く、


ロック本人も「そうだなぁ…」と考え込む姿勢を見せている。


ティナはわくわくとした気持ちを抑えながら、彼の口が開くのをじっと待つ。




「一年くらい…前の話なんだけど…」




物語が紡がれていく…









 +









帝国内部の薄暗闇に身を潜める青年が一人。


彼の名はロック・コール。


バンダナが特徴の自称トレジャーハンター。


パイプとパイプの間に身を滑らせると走り去っていく帝国兵を黙って見送る。


足音が聞こえなくなり静かに息を吐き出した。




「(騒がしい…。何かあったんだろうな…)」




すばやく辺りを見渡すと出口を目指して先ほどと変わらず気配を消して薄暗闇を抜ける。




「(こっちとしちゃあ、好都合だけどな)」




用は見つからなければいいだけの問題。


それに万が一見つかっても帝国兵ぐらいならあしらえる腕もある。


ふ…と小さく余裕の笑みを浮かべたロック。


けれど最後の階段を上ろうとしたとき…その笑みは消えることとなる。




「…!」




外界の光をさえぎるように立つ小柄な少女。


一心に外の様子を伺っている様子だ。


暫くして人の気配に気づいたのか少女が振り返り、


彼女の持つ褐色の瞳に銀髪のシーフの姿を映し出す。


ロックはその時、背筋が凍るような圧迫感を感じて咄嗟にナイフを手に取った。


少女は小さく小首をかしげる。




「だ、れ…」




蚊の鳴くようなか細い声。


勿論それは少女のもの。


外傷は見つけられないが相当弱っているようにも見える。


薄汚れた簡素な服。


虚ろな瞳。


花を連想させる淡い髪色。


…弱弱しい


けれどそれ以上に…




「(美しい……。なんて、柄じゃねぇけど…でも……)」




光を失ってない澄んだ瞳がロックを射抜くように見据える。


ロックは逸らしてしまいそうになる視線をしっかりと外さないまま少女と向かい合った。




「君はこんな所でなにを―――」




『こっちから声がしたぞ!!』


『逃がすな!!』




「―――やべっ!」




ロックが少女へと向けた声は以外にも帝国内部で反響したらしい。


それを聞いた兵が近くにいた兵と連絡を取り合う。


…ロックが見つかるのも時間の問題だった。


ナイフをしまうと出口へと向かうロック……




「こっち」


「―!?だってこっちは………」




今来た道…


ロックの言葉は飲み込まれる。


少女が突然自身の腕を掴み、そちらの方向へと引っ張ったのだ。


引っ張ったのはじめの一瞬だけだったが前方をまるで導いているかのように走る少女。


とん、とん…


と軽い足取りで地をける彼女はこの地形に詳しいのか躊躇うことなく進み続ける。




「……っと」




しかもかなり速めの速度で。


身軽なのか落ちる事のないペース。


振り返ることのない少女だが距離は一定を保っている。




「海」


「……え…?」


「みえるでしょ?」




いつの間にやら足を止めていた少女がすっと指差しながら言葉を紡ぐ。


指先をたどるように目を向けると少女の言ったとおりその場所には海が見える。


広大に広がる海。


澄んだ蒼。


空を映している。




「ああ…」


「其処を目指して…。今日中にはアルブルグにつくよ」


「ありがとな……いろいろ…。俺はロック…!君は……………あれ?」




まるで光がかき消されるようにいなくなった少女。


ロックは振り返り探したが、兵の足音を耳にいれながら少女に言われたとおり海を目指す。




「また……会えるかな。……会えるといいな」









 +









「そう……そんなことがあったの…」




一通りの話を聞いたティナが相槌を打つ。


風のせいでさらさらと流れる翠色の髪を軽く押さえると、


階段を上って甲板へとやってきたを見つめ、微笑む。


二人の存在にすぐに気づいたは小さく微笑みをこぼしながら歩み寄った。




「もうすぐ夕食にするよ、だって」


「ああ、わかった、すぐに行くって伝えといてくれ」


「うん。…………機嫌よさそうだね、ロック。何の話をしてたの?」




褐色の澄んだ瞳に問われ、ロックは「ん…」と誤魔化すように呟きながら口端を持ち上げた。


それから何を言うでもなく無造作にの頭を撫でる。


疑問符をいっぱい脳裏に浮かべるはされるがままだったが、


ロックはの言っていたとおり機嫌がよろしいご様子。




「さてと、いくか…」


「え…?教えてくれないの???」




ずるい!


と口を尖らせる


すたすたと行ってしまうロックの後ろを追うように歩くは、


むっとした表情を浮かべながら今上ってきた階段を下りていく。


やがて頭が見えなくなっていく頃に、ティナが口元だけ笑んで見せる。




「よかったわね…。また、会えて…」




ポツリと呟いた言葉は日の沈みかかった大空がかき消した。




























「ロック…か」




ふぅ…と息を吐き出すと荒かった呼吸が一気に解消される。


少女は振り返ることなくある場所へと足を進めた。


扉を開き、目的の人物を視野にいれ膝をつきなら頭を下げる。




「あなたなら戻ってきてくれると思っていましたよ…。それにしても…どこに行っていたのですか?」


「………。申し訳ありません、ケフカ様」


「…。まぁいいでしょう。しかし次私には向かって御覧なさい…


 君の大事な兄が無残な姿になるということを…しっかりと覚えておきなさい。……




はい。


虚ろで…それでも光をしっかりと携えた視線が、あごを持ち上げられる形でケフカとぶつかる。


頬を撫でる冷たい指先には無表情で貫き通すと、


たった今であった青年を思い出し目を閉じる。




きっと、また会える。




そんな思いを胸に秘めながら…














inserted by FC2 system