織姫と彦星
7月7日。
七夕。
それは年に一度…織姫と彦星が会うことが許された日。
晴れ渡る夜空には天の川という橋がかかり…引き離された2人を繋ぐのだ。
そして今年は…晴れ。
織姫と彦星の2人は……
+
青、赤、黄色…
様々な色形の星々が歓迎するように織姫の元へと集う。
織姫…は暖かいお出迎えに褐色の瞳を細めながら、
祝福を心から喜んだ。
だが、いつまでも星たちに視線が向いているわけではなく、
先ほどから少しばかり慌しいようにも見えるは“彼”のことを無意識に探していた。
くすくす…と星の子が可愛らしく笑みを零したかと思うと、
まるでを導くかのようにきらりと流れ落ちる。
そして、
「…………ロック…?」
「……よぉ」
雲間から覗く懐かしい思い人の姿に、は時が止まってしまえばいいのに、と思う。
そうしたずっと一緒にいられるのに…
そんな彼女の想いが涙となって零れ落ちる。
彦星…ロックは小さく安堵と落胆の二つの息を零しながら、との距離を縮めた。
手を伸ばし、しがみ付いてきた彼女の懐かしいぬくもりを、しっかりと抱きとめる。
愛しいその存在をしっかりと腕の中に確かめた。
「…寂し…かった……よ?」
「…だろうな」
「ね、ロックは……寂しくなかったの?」
自身を見上げるのは潤んだ瞳。
ロックは親指の腹でそれを拭ってやると、目線を合わせてから優しく呟いた。
「すごく…寂しかった」
短く一言。
それでもは満足そうに微笑んだ。
彼が一番大好きな笑顔で…笑った。
「ずっと雨降りで会えなかったもんな…。全く、生殺しもいいとこだぜ」
「…うん、そだね」
「……………どうした?」
ふるふると首を振ってみせるは彼の手をぎゅっと握り締めながらなんでもないと主張する。
久しぶりに会って、話したいこともたくさんあったはずなのに…
言葉にならずに飲み込まれる。
は目を伏せ、視線を下へと落とした。
「また……一年間会えなくなっちゃうんだね…」
「………あぁ、そう…だな」
「ずっと…一緒にいたい」
「………………」
俺も、との額にキスを落としながらロックは言う。
一年に一度しか会えない。
たった、一度。
暫く何かを考えていたロックはふ…と微笑み口角を持ち上げた。
「俺の職業しってるだろ?」
「…?ドロボ…」
「トレジャーハンターだってっ!………だからさ…
俺がお前を盗む………ってのはどうだ?」
一時はきょとん、とした様子だったも、意味をようやく理解したときには
耳まで高潮させながらこくりと頷いた。
「よしっ」と得意げに笑うロックは一番が好きな表情。
「………きゃっ!」
「さてと。どこへなりと…お姫様」
脇と膝へとすばやく手を忍ばせたロックは軽々とを持ち上げて、
星々の合間をくぐりぬけ、その姿をくらました。
…ま、最初からそのつもりだったってのは秘密って事で……
+
「………ぃ…おい。起きろって…」
揺さぶられる感覚を肩に感じながらの意識は覚醒する。
無理やりに目を目覚めさせるはようやく自分が眠ってしまっていたことに気がつく。
ぼんやりとする視界の中で自分がテーブルで眠っていたせいで、
体がほんの少し痛むことに自嘲の笑みを浮かべた。
を起こした…ロックは居間のほうを指で示す。
居間からはリルムやガウの賑やかなはしゃぎ声が聞こえてきた。
「カイエンの母国では今日は“七夕”っていう日らしいんだ。
でさ、今みんなで笹に飾る短冊に願いを書いてるとこなんだけど…」
書くだろ、と差し出されたのはピンク色の紙に黒ペン。
ニコニコと期待気に笑うロックを見るところによると、自分に拒否権は無いらしい。
は小さくため息をつくと、不慣れな感じのある文字を紙の上に並べた。
[みんなの願いがかないますように]
「…おいおい……それじゃあ自分の願いじゃないだろ?……まぁ、らしいけど…
……………???」
紙を裏側にして書いたのはさっきとは違った。
普段は見ることの無い文字が、先ほどよりは丁寧につづられていく。
それは、のつけているブレスレッドに刻まれているのと同じものだった。
母国語…幻獣界で使っていた文字だろうか…
「なんて、書いてあるんだ?」
「………さぁな」
「教えろって…!」
「やだね」
つん、といった雰囲気ですたすたと笹のほうへと歩いていくに、
その後を追いかけていくロック。
書いてあった言葉は
“ロックとずっと、一緒にいられますように”