永久の別れ














ぎゅ…と無言でしがみ付いてきた少女をケフカは難なく受け止める。


少女はまだ幼く、今年で6歳になったばかりだ。


一年前、ここに来たばかりの時には長かった桜色の髪を、


今では短く切ってしまい、凸凹のついていない今の体系では


男の子なのか女の子なのかぱっと見ただけでは分からなくなっていた。


腰に回される細い腕が小刻みに震えているところを見て、


ケフカは少女が泣いていることに気がついた。


声を押し殺して泣く彼女はどこか助けを求めているようにも見える。


そっと短い髪を撫でるようにしてから優しくたずねるケフカ。




「……どうしたのです?」




小さく首を横に振る彼女。


なんでもないといいたいのだろうが、それは偽りの言葉だと言うことは誰にだって分かる。


ケフカはゆっくりと膝を折り、覗き込むような形で目線の高さを合わせた。




「言ってくれないとわかりませんよ?…」


「………」


「……。と喧嘩でもしましたか?誰かが怪我でも…?


 …………それとも私の…、…………………!」




ケフカが自身のことではなく他の…


の身の回りにいる人のことばかりを問うのはが他人のことでよく傷つくから。


ここに来る前から、自分よりも自分の周りにいる“仲間”を強く意識するから…


は最後のケフカが言いかけた言葉に強い反応を示した。


びくりと体を強張らせ、ケフカの背中の衣服を握り締める指先に力が入る。


ケフカは小さく呟くように「そうですか」と言う。




「難しい実験だって、聞いちゃったんだ…。その実験に、ケフカが、ケフカが……」




難しい実験。


それは帝国が幻獣から取り出した魔力を人間へと移そうと言うもの。


理屈は簡単だが、今まで何体もの“モルモット”が見るに見れない姿となってしまった。




そうまでして力を得たいか。


そうまでして世界が欲しいのか。




ガストラ皇帝のやり方に従う自分に自嘲の笑みを浮かべながら、


ケフカはまだまだ頼りない華奢なの体を抱き上げるようにして、


柔らかい笑みを零した。




「私に心配なんて要りませんよ。心配と言えば……。


 の具合があまりよくないのでしょう?私よりも彼のことを心配してあげてください…」


「………おにいちゃんね、熱が高くて苦しそうなの。がケアルかけても治らないの……」




どうしたらいいか分からないの。


しゅんとした様子で言う


6つになったばかりの彼女にはどうすることもできなかったようだ。


ケフカは優しい口調で言う。




「いいですか、。相手を大切だと思うなら“傍にいてあげてください”


 手を握っていてあげてください。…いいですね?


 の熱もきっと下がりますよ」


「……ほんと?」


「ええ。私が嘘をついたことなんてありました?」




悪戯っぽく言うケフカに、はふるふると首を横にふった。


再び地面へと彼女をおろしてやると、背中を押してやる。


躊躇いがちに…ちらちらと振り返る


ケフカは彼女を最後まで見送りながら、




「また、遊びに来てくださいね」




と、微笑んだ。


最後に、綺麗に笑った。









 +









再びがケフカの元にやってきたのはあれから一週間がたったころだった。


自身も任務を背負わされることとなり、その時間の合間を使ってやってきたのだ。


ガチャリと重たいドアノブをまわしていつも通りに部屋へと入る。




「あのね、あのね…!の熱が……………」




人生ではじめて覚えた背筋が凍るような感覚。


ひんやりと張り詰めた空気。


子供の自分でも分かる。


は目の前で冷たい視線を送ってくる人物にごくりと生唾を飲み込んだ。









アァ




サヨナラ














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