ミエナ様 キリリク 嫉妬物 ロック 9000














 闇色の吹溜















むかむかする。


すこし離れたところで不器用な愛想笑いをしている


彼女の事を見ていると。


否、違う。


その周りで“あいつ”に話しかけてる奴を見てると、か。




「(気安く触るな…)」




気づけば周りの音が聞こえなくなって、


気づけば周りの人が見えなくなって…




「帰るぞ、




彼女の手を無理やり引くと、


2、3言零す男の存在を完全に無視して、


ひたすらに出口へと進む。


不安そうな声で疑問を示すにも、


無言という言葉で返す。


外気の冷たさに触れ頭に上っていった熱が段々と下がると共に、


やってくるのは自分に対する罪悪感。




…馬鹿だな、オレ。




どうしてのこと信じてやれなかったんだろ。









 +









オペラ座のダンチェーさんに




「あの時のお礼だよ」




と言われ、受け取ったのが二枚のパーティー招待券。


あまり華やかな所や、賑やかなところが苦手なが今回、




「上級階級の奴らって情報通だよな…」




というロックの一言で共にすることになった。


衣装はついで、ということで借りたオペラ用の衣装。


(それでも一番簡素で派手過ぎないもの)


聞き出す情報は今ロックが求めている宝のこと…


そして、が求めている竜の居場所…




だった。


ロックと分かれて、数分。


で広場内を歩く。


近づいてくるへらへらと表面だけの笑顔を貼り付けている、


男に声をかけられ、困ったなぁ…と愛想笑いを浮かべてしまう。


…勿論相手には気づかれないように薄っすらと。




「(ソロソロ開放してくれないかなぁ…)」




思っては見るものの口にすることが出来ずたじたじ…。


どこからきただとか、


誰と来ただとか、


何処に住んでるだとか、


このワイン美味しいよねとか、


近くに夜景が綺麗な場所があるとか、


それよりも君のほうがもっと…




「(困る…………)ふふ…お世辞がお上手」


「お世辞じゃないさ」




内心深々とため息。


段々と自分が苦手な分野に入っていくのに比例して、


男との距離が縮んでいく気がする。


流石にこんな豪華なパーティーで、


感電事故なんて起こせるわけないし、


暴力なんてもっての他だ。


ほかにいい方法は無いものかと、


思考させているうちにひとつの答えが浮かび上がる…




「(ここにロックがいてくれたらいいんだけど…)」




手っ取り早いのがそれだと思う。


けれども生憎彼はこの場にいない。


段々と相変わらずの調子で


語りかけてくる男に嫌気が差してきたとき、


後ろからぐい、と男の人の強い力で、


腕を引かれて目を見開く。


考え事に熱中しすぎて


歩み寄ってくる存在にすら気づかなかったのだろうか。




「帰るぞ、




身構えた矢先。


聞きなじみの深い声を耳に、ははっと現実に戻る。




「ロ、ロック…?」




顔を見ようともせずにただひたすらに、


腕を引き、歩くロックに、


自分が何かしたんだろうか…


という不安に駆られる


素っ気無い態度の彼を、は自分が怒らせたんだ。


と解釈したのだ。




「痛いよ…ロック。ね、どうしたの?」


「…」


「…、……ロック、歩くの、早いよ…っ」




慣れないヒール。


過去何度か履いたことがあるため


歩く分には問題はなくなったが、


それでもこういう風に早歩きのような状態になると話は別だ。


…案の定それは起こった。




「――――」


「…」




繋がった腕が強く引かれてロックは足を止め振り返った。


そして体制を崩した


身体を安々と受け止める。




「………ごめっ!」




どうして謝るのだろうか…


元の原因は自分だと言うのに。


醜い感情を押し付けたのは自分だと言うのに…


罰の悪そうに顔をゆがめて、オレの反応を伺っている。




「なぁ、…」


「…へ?」


「オレ以外の男の前でへらへらすんなよ…頼むから…」


「…?」


「見ててイラつくんだよっ…オレが!」




きょとんとした素振りを見せるに、


つい声を荒げてしまったロック。


はっ、となるも言葉は空気を伝って


しっかりとの耳にも届いているだろう…


一瞬バツの悪そうな表情をすると、


それを隠すためにを胸の中に収めた。


ロックに抱きしめられ、暫く黙り込んでいた


が、おずおずと口を開く…




「えっと…さ、違ってたらいいんだけど…




 もしかして……ヤキモチ???」




「…………」


「…ぇ、あ…違ったならごめんね?」




反応を見てしゅんと俯く




「さっきの人ね、すっごくしつこかったの。


 だけど自分だけで何とかしなくちゃかな…って思ってさ。


 ロックにいっつも頼ってばっかりでしょ?


 だからさ、結構頑張ったつもりだったんだ、僕。


 …でも駄目だったね。


 結局ロックに助けてもらっちゃった…」


「…」


「どうしたらいいか解からなくて…すっごく怖かったよ…?」




しがみ付くように、それでも遠慮のほうが勝っているのか、


はほんのりとロックの服の裾を握った。


ぎゅ…とロックへと身を委ねた


の身体は少し…震えていた。


ロックはちゅ、と額に軽く口付けると、


出来るだけ優しい声で言った。




「………かもな」


「?」


「いや…。


 …オレこそごめん手首…痛かったろ?」




剣術が得意で、一時男装していたとはいえ、


彼女は立派な女性。


淡白なドレスを身に纏っている彼女に


男装していた頃の名残はかけらも無い。


男の人の力で強く握られた手首を


少し摩りながらは薄く苦笑した。




「じゃ、仲直りだね」


「だな…って、俺が一方的に悪かったんだけどな」


「でも、心配かけちゃったのは僕だよ?…なら僕が…」


「でも俺のほうが……」




一度顔を見合わせて、2人とも噴出す。


人気の無い暗闇で一通り笑うと、


どちらともなく仲直りのキスをした。














「ね、ロック。ひとつだけわがまま…駄目?」


「どうした?」


「さっきのでね、足挫いちゃったんみたいなんだ…


 負ぶってほしいなぁ…なんて…。……駄目かな?」




「…お安い御用」














(ごめんな、ホント)(だからもういいってば、気にしないで) inserted by FC2 system