君に捧ぐ世界















「あっちにはいかないのか?」




炭鉱都市ナルシェ。


山脈に囲まれたこの都市はいつでも雪に覆われている。


ちらほらと粉雪が舞い降りていく中、


リターナーの一員…ジュンの自宅で


敵が攻めてくるまでの合間、待機をしていた。


刻一刻と迫っていく時間。


メンバーはそれぞれに戦いまでの時間をつぶしていた。


あるものはリターナーの指導者、バナンと


今後の計画を立てている。


またあるものは戦いに備え武器の手入れを。


そんな中、壁にもたれかかっているセリスに向かって、ロックは口を開いた。




「何故?」


「いや?ただ…街出たときからずっと一緒だっただろ?」




何をするわけでもなく隣に腰を下ろし、


彼女を見上げながら言う。


少し黙っていたセリスは親指である方向を指し示した。




「久々の再会のようだからな、仕方ないだろう…


 さんは昔からあいつのことを気にかけていたしな」


「へぇ…。ま、みてりゃあなんとなく分かるけどな」




セリスが指し示したのは本部で離れ、


セリスの言ったとおり数日ぶりに再会したとティナの姿。


何を話すわけでもするわけでもなく、ずっと寄り添っている。


エドガーの話を聞くにと別行動中、


ずっと不調だったらしいが、


の肩に頭を乗せる


今の彼女の表情はとても安堵しているものだった。


そんな二人はこの緊迫した雰囲気には


不釣合いなほどほほえましいものだった。


移した先のセリスの視線が少しだけ複雑そうなもので、


ロックは、ははん…とニヤリとする。




「なるほどなー」


「?…気持ちの悪いやつだ」


「きも…っ。………お前あれだろ?


 がとられたみたいで気に入らないんだろ?」


「…」


「…」


「…」


「…?」




―― カチッ




「…っ!言いたいことがあるなら口で言おうな、口で!」




一言で言えば図星。


それがあまりにピンポイントだったせいか、


セリスの反感を買うには十分だったそれ。


一瞬顔をしかめたかと思うと次には行動に移っていて、


そのしぐさにロックは少なからず反応してしまった。


つん、と視線をそらすセリス。


少々機嫌を損ねてしまったようだ。


一度肩をすくめ、数秒思考をしていたロック。


そしてはっとなる。




のこと、好きなのか?」


「からかっているのか?」









 +









「お腹、すいてない?」




ポツリとつぶやいた言葉に、ティナは素直にうなづいた。


ここしばらくばたばたしているせいもあってか


ゆっくりまともに食事もしていない。


その上今から激しい死守戦になるかもしれない


戦いの前に、おちおち飯にありつけるはずもなかった。




「へへ…僕も」




乾いた笑みを浮かべる


ティナはそんな“彼”を見上げてうっすらと微笑んだ。


見合わせた二人は「何か食べようか」と暗黙の了解をしていた。




「腹、へってるのか…?」




じっとしたから覗き込んできたのは、


さっきまでマッシュとともにいたガウだ。


興味深そうにまじまじと見つめたかと思えば、


淡々とそんな質問をする。




「あぁ。だが生憎今は何の持ち合わせもしていないんだ


 なにかジュンさんに適当なものを……」


「――食うか?」


「ん?」




へと差し出したのは干し肉。


押し込まれていたものを無造作に取り出したせいか、


ややへな猪口な形になってしまったそれ。


だが、お腹をすかせている二人にとっては関係のないことだ。




「いいのか?」


「やる」


「良いやつだな。例を言うぞ…」




干し肉を受け取る


手渡したガウのからだがの最後の言葉に大きく反応した。


ぱちぱちと瞬きをして珍しいものを見るようなまなざしで見つめる。




「良いやつか?ガウ、良いやつか?」


「え?…あぁ良いやつだな、お前は。僕たちに干し肉を恵んでくれた」


「ガウ、いいやつ!お前も良いやつ!」


「いや、僕は…」


「おいらのこと良いやつ、いった!ならお前も良いやつだ!」




用は気に入られたらしい。


きらきらと眼を輝かせるガウには少しひるんでしまう。


照れ隠しに頬をかくを見て、


複雑そうにそれを見つめるティナ。


むっとした視線を露骨に出す。




「私、要らない」


「?お腹すいてないのか?」


「いいわ。私の分、が食べて」




明らかにさっきまでとは態度が違う。


無愛想にそういうとティナは唇を尖らせて見せる。


すねているようにも見えるそれ。


それを知ってかしらずか、はそうか、と息を落とした。




「なら、僕もいいや」


「え?」


「僕一人だけ食べるのもなんだしな…


 ティナが食べないなら僕も食べない」


「…」




食べるわ。


そうティナが言ったのはすぐのことだった。


持っていた干し肉を半分に分け、


ティナが指で示したのは一回り小さいほう。


も素直にそれにしたがい、


小さいほうをティナの手の中へと手渡した。


そして、自分の分もさらに半分にちぎる。




「みんなで食べたほうが味もいいからな」




ガウにも渡した。


少し気のすすまなそうなティナ。


完全な嫉妬だった。


本人無意識なうちにやきもちを焼いていた。




「…おいしいわね」


「ガウー」


「そうだな」




少し楽しそうに口端を持ち上げた


そのしぐさにティナも眼を細めた。


満足したような面持ち。


それをみてティナは少しだけ落ち着いていた。




ガードがあわてた雰囲気で報告にやってくるまで後、少し。














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