ロック














 あの時確かにそう言った















「あの、さ……」




小首を傾げては聞いた。


暫く悩む素振りをしてから


腰からパチンとナイフを取り外した。









 +









ゾゾを抜けてジドールの街へやってきて早々、


旅に必要なものを物色するために


其々に行動することになった。


マッシュとセリスはポーションやエーテルといった


最低限必要な道具の補充。


エドガーは一人急速に必要な宿を取っていてくれるらしい。


残ったのはロックと




「俺、ちょっと見たいとこあるから、」




といったロックには何となくついていくことにしたのだ。


ロックが迷うことなく入っていったのは武器や。


ソードや刀…


爪に槍、ロッドにいたるまで各種揃えられている。


はそれをあどけない表情でぐるりと見渡す。


興味心身なのは見て解る。


そんなものには目もくれず、ロックは真っ直ぐにある場所へとむかった。


その棚の上には様々な種類の短剣が並べられている。


折りたたみ式なもの。


フルーツカット用なもの。


そして、普段ロックが使っているような


ハンティング用で、武器としても使えるようなもの。


どうやら目的のものはナイフらしい。




「?ナイフもう一ついるの?両手持ち?」


「まぁ…な。どちらかと言うと新品ってのも気が引けるだけど…」


「…、あぁ切れ味とか少し違うしね」


「慣れればなんでもないだろうけどな」




手当たり次第にナイフを手に取り物色している。


口元に手をやって小さく唸るロックの表情を見るからに


あまりこれだ、といったものはないようだ。


「新品は気が引ける」


「慣れれば」


というロックの言葉からはすぐに「急ぎ」だということを察した。


これから帝国に乗り込もうといっているのだ。


ある程度の備えは必要だろう。


は暫く伏せた風な瞳で思慮していた。


それから「あのさ」と遠慮がちに呟いてから


ベルトのホックをパチンとはずした。




そして冒頭に当たる。




ロックは視線を相変わらずナイフのほうへと向けたまま


曖昧に生返事をする。


控えめに自分の愛用していたナイフを差し出す


ロックの褐色の双眼がそれを捕らえる。


そして脳裏に疑問符を浮かべながら首を微かにかしげた。




「貸したげようか?」


「んぁ?いいよ、別に。それはお前が使ってるだろ?」


「僕にはもうロッドがあるし……


 ……多分これからは魔法中心の戦いになると思うんだ」




魔石を其々持ち習得中のロック、マッシュ、エドガーの三人。


その三人がこれから魔法を含む戦いをしていく事くらい


考えなくても納得できる。


ティナがいない今、セリスやの魔法は


とても重宝している。


特に生まれつき魔導の能力を持つ


短い詠唱で高度な魔法呪文を連発できるということで


近頃では本来のソードを使用した近距離形態から


一定の距離を保った遠距離形態へとかわりつつある。


そんな今のにナイフを使うことはほぼ皆無に近い。




「いいのか、本当に。俺が使っても」


「僕がいいって言ってるんだからいいんだよ」


「…、けどそれ、お前が小さい頃から使ってた奴だろ?」


「うん。まぁ実際父さんのですっごく大切な奴だったりする」


「―――なら、」




なら、


その先に出てくる言葉はそれなりに予想ができる。


きっと“お前が持っていたほうがいいんじゃないか”


…だろう。


たとえそれが使われなくても、持っていることに意味はある。


それが永遠に会うことのかなわない者の形見であるとすれば尚更だ。




「じゃあ、言い方をかえよっか、」


「?」




ナイフの装飾としてはめ込まれている石を


そっと撫でながらは視線を落とした。




「 お守り、ロックが持ってて。 」




そしてその後照れたふうに




「いっつもいっつも進んで前線で戦うくせして


 毎度毎度かすり傷作ってこられたら


 後ろで戦ってる人間としてはいい気しないし…


 そ、それに……治癒とかするの(何故か)いっつも僕だし…


 そんな風に怪我ばっかされるくらいなら使ってくれていいって言うか…


 ってか、使わないよりも誰かに使ってくれてるほうがナイフも嬉しいだろうし。


 それにロックなら無茶苦茶にしたりしないだろうから安心できるし…


 (僕も、嬉しいし…)」




と語尾がしり込みしながらも付け加える


天邪鬼というのかなんというのか…


「貸すだけだからな、」と強く言っているが


照れ隠しが見えるそれは愛嬌すら浮かぶ。




「サンキュ、」




そういって頭を撫でてやればあからさまに


ぶっきら棒な態度でふいとそっぽを向く。


ニカ、とロックは笑った。




「ちゃんと、守ってやるからな、」




「―――え?」


「さぁてと、宿で一眠りでもすっかな」


「はぁ?今ちょっと何か……」




からもらったナイフを自身の持っているものとは逆の、


右側のベルトに取り付ける。


ぽん、とそれを叩いてからロックは


後ろから何事がぶつぶつぼやきながらついてくるを見やった。




「置いてくぞー」




そう一言言えばは唇を尖らせながら押し黙る。


そして子犬のようにしっかりと自分の後ろをついて歩くのだ。




少し、頬が火照っていた。














(今確かにそう聞こえた)(別に意識なんか、して、ない…) inserted by FC2 system