ロック














 道標の気まぐれ














ツェンといえばガストラが皇帝だった事の軍事国家ベクタの占領区域だった。


その占領作戦の一部にも関わっていたから記憶にある。


逆らうものには征伐を。


使えそうな奴は連行せよ。


後に連行されたもの達が実験に使われたというのは言うまでもあるまい。


それだけむごい事をしてきた。


また。


それに関わっていた自分も、残酷な人間だろう。


否定はしない。


真実だから。


だが、それをこれからどう向き合えばいいのか。


まだ幼かった自分は耐えることしかできなかった。


逃げる事は許されなかったから――









 +









世界の崩壊前であっても、リターナーに属するようになってからは


一歩だって踏み入った事なんてなかったのに。


かつてのガストラ帝国占領区域に今はいた。


正確にはたちだ。


すぐ傍にはロックの姿があった。


飛空挺を街の近くに止め、燃料やら旅に必要な道具を備える一行。


女性陣はさっさと食料調達へ行ってしまったし、


マッシュ、エドガー、カイエンたちも武器や食料の調達にいってしまった。


残ったロックはと共に先に宿をとっておくことにしたのだ。




(ここ、お前にとっては居心地相当悪いんだろうな…)




言葉では言わないようにしているのだろうが、


ロックからしてみれば強がっているのが嫌でもわかる。


口数が少ないのが何よりの証拠だ。


何か話せばその話題になりそうで。


もしくは何かぼろを出してしまいそうで。


気を張っている彼女を見ているのは彼にとっても辛いものだった。







「…どうしたの、ロック?」


「あ、いや……」




気をそらそうと話しかけたもののいつものような会話ができない。


頭がクリアになって、言葉が消えていく。


こんなんじゃさらに心配をかけてしまうことは分かっているのに、


どう切り出して言いのかわからなくなってしまった。


疑問符を脳裏に浮かべ、小首をかしげる




「バカロック」


「なっ…」


「調子狂うだろ?」




ケタケタ…と笑ってみせる。


少し無理はあるものの、彼女自身そうでもしていないとおかしくなってしまいそうだった。


ほんの少し。


いつもより強がって見せて。


そうして本心では彼を求めた。


安堵の眠りを欲する。


すこしでいいから、と彼女は思った。




「ロックが思ってるほど、僕は弱くないよ」


「……でも」




が細い腕をゆっくりと伸ばした。


彼の首に巻きつけてそっと触れ合う程度に抱きしめる。


僅かに震える指先は彼の背中の布を握り締めていた。


ぎゅ。


しわになってしまうのもお構いなしだ。




「ロックに守ってもらうから、大丈夫」




束縛からも、柵からも、不変からも。


君はきっと僕を守ってくれるだろう。


現実が嘘でなくてもいいから。


これからを楽しみにしたっていいだろ?














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