last promise














ゆっくりと階段を下りていく音。


足取りは重い。


の瞳がある人物を映したところで足は止めた。




「ロック…」




その呟き声が耳に届いたのか、ロックはのほうを振り返って


そしてなんとも複雑そうな表情で薄く笑んだ。


いつもとは少し違ったぎこちなさと居心地の悪さに


は足を止めたまま進みだすことができないでいた。


ロックにも…


そして“彼女”にも…申し訳なさが体中を支配していたのだ。




「忘れてなかったんだな」


「…忘れないよ。全員分覚えてる…。顔も、名前も…」


「そうか…」




部屋中に敷き詰められた赤いバラ。


ほのかに匂いを漂わせている。


まるで自分を拒んでいるような、そんな錯覚に陥る。


ロックは一度“彼女”に目をおとし、そして


俯いたまま一歩も動かないにそっと手を差し伸べた。


は黙ってそれに従い、ロックの隣で


何年ぶりかの“彼女”との再会を果たした。




「レイチェル…久しぶり」




あの時となんら変わらない姿だ。


口元にはマスクをしており、いくつもの太いチューブにつながれている。


まるで今にも瞬きをして動き出しそうな“彼女”はすでに帰らぬ人…


ロックが、蘇生の法を探しているのも彼女の為。


“蘇生”…


禁忌とも言われているその呪文を知っている


内心複雑であった。


禁術に指定されるほどの難易度の高い魔法だ。


代償だって大きい。


けれども。


彼女の生涯を奪ってしまったのもまた事実。


もしロックが求めていると言う伝説の“フェニックス”に


出会うことができなかったら、その時は――




「時折夢に出てきては、僕を導いてくれてたんだ…」


「…レイチェルが?」


「そう。…レイチェルだってわかったのは、最近だけど」


「……」




隣にいるロックは今どんな気持ちで僕の話を聞いているのだろう…


は思った。


という人間は最愛の恋人を奪った帝国の人間。


リターナーに組するようになったのも帝国を恨んでのことだった。


言ってしまえば元凶であるをうらんで…。


…まさかこんな形で、再会しようとは。




「アイツは…何か言ってたか?…俺のこと」




彼の問いにはほんの少し目を見開いた。


そして唇を噤んだまま過去のことを思い出す。


胸が締め付けられるようだった。









いきなりに強められた力は少女へと向いた。


すぐそばにいたにも火の粉はかかる。


強まった力は得意体質も手伝ってか、電気を伴わせた。


少女の瞳がかっと開き、膝を突く。




「ロック…。ロックはどこなの……?伝えないと、早く…」


「(…記憶の一部が可笑しくなったか…?)………」




『 ねぇ、お願い。ロックに伝えて!私は……私は……               』




「???………伝えるなら自分の口で言え、そのロックって奴にな」




の体にしがみ付くようにして求める少女。


その瞳には光は映っていない。


おそらくは耳も…


暴発した力が少女を蝕んでいくようにも見える。




「無理をするな………死ぬぞ」


「おね……ゴホッ、グッ……がい、します…」


「…………」









すべては愚かな自分のせい。


すべては浅はかな自分のせい。


すべては無力な自分のせい。




彼女の事は日が変わり、季節が変わり、年が暮れても忘れることはなかった。


そしていつしか彼女は自分の夢に出てくるようになったのだ。


まるで引き寄せられるようにひっそりと。


そして、まるで波のように穏やかで…


手を伸ばしてさわろうとするのに、届かない。


――君は何を想ってる?









しばらくの沈黙の後、は静かに言った。




「なにも…。ただ、名前を呼んでた。何度も何度も……」


「………」




ロックは俯いてそうか、と呟いた。


はそんな彼を横目で見て、胸に1つ決意を抱いた。




目の前にいるレイチェルとの最後の約束。




――  ねぇ、お願い。ロックに伝えて!私は…私は――


――  ???…伝えるなら自分の口で言え、そのロックって奴にな。




もう一度、自分の声で、言葉で…彼に伝えればいい。


ロックは必ずフェニックスを手に入れるだろうから。


そして君をもう一度よみがえらせようとするだろうから。




もし、ロックが失敗しても、僕がよみがえらせてあげる。




僕の命を代価として差し出して――














(だから僕からは言わないよ)(君が最後に言い残した“言葉”を――) inserted by FC2 system