連載終了後のお話・ほの甘













 まだかな?














ほら、と手渡されたのは冷たいココア。


彼は自分の好みをよく知っている。


そんな気遣いにさえもぐっと目を細めて喜んでしまう自分は


安い女なのかもしれない。


でも、だって。


好きで好きで仕方ないんだもの。


理由なんてない。


一目見て、好きだなって思う。


笑った笑顔にめまいするほど。


こんなこと。


出会った当時なら考えもしなかったこと。


思い返して、ほら、また笑っちゃう。




「口元、緩んでるぜ?」


「へへ…だってロックの作ってくれるココアいつだっておいしいんだもん」


「そりゃあよかった」


「冷たいココアもあるんだね。温かいのしか飲んだことなかったや」


「ま、夏だしな」




アイスココアが二つ。


ひとつはの手の中で保冷剤の役割を果たしている。


ふと気がつけばすぐに外を歩きたがる


旅を終えて全てのことが一段落したのだから、


ゆっくりと落ち着けばいいものを。


性格…だろうか。


じっとしているとソワソワするらしく、いてもたってもいられなくなるらしい。




「なんだか、平和ボケしちゃうな…全力でアルテマうってた頃が懐かしい」


「おいおい、もうやるなよ?もうお前一人の体じゃないんだからな?」


「…わかってるもん」




そっと。


ロックの手がのおなかに触れる。


まだまだ小さなふくらみ。


これからどんどん育っていく命。


宿ったもの。




「名前…何がいいだろうな?」


「うーん、迷っちゃうよね。やっぱ会ってみないと決めらんないかも」


「それもそうだな」




どんな顔をしてるんだろう。


どんな声で泣くのだろう。


どっちの性格に似てるのかな?


できれば。


男の子がいいな、なんて。


考え出したらきりがない。


でも、考えただけで幸せな気持ちになれる。


ぎゅ、とロックの手に自分の手を重ねると


握り返してくれることをは知っている。


そうして彼女が笑顔になることを、ロックは知っている。




の名前は、どうやって付けられたんだろうな?」


「ん…あんまり覚えてないんだけどね。父さんが付けてくれたみたい」


「へぇ」


「天使の名前だったかな。意味は“癒し”…」


「…」


「って、ちょっと僕にはもったいない名前だけどね」


「そんなことないさ。俺は十分お前に助けられたよ」


「…ありがと」




気恥ずかしくなって、ぽす、と横腹を殴る。


唇を尖らしてはにかみを抑える。


なんだよ、といってロックは笑った。




…」




ふと真顔になって優しい声で言うから。


ついつい素直になっちゃうんだ。


ずるいね、君。


ホントずるいよ。


唇が離れる。


腰へと回される腕。


寄り添った二人。




「名前ねちょっと考えてあるんだ」


「へぇ…聞かせて?」


「まだ内緒」




君に会えたときまでお預け。














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