まちびと














笑顔がちらつく。


暖かい微笑み。


少しまぶしいくらいに。


灯る。


ほんのりと。


微笑んだ。


そして少し低い声で僕に言うんだ。




眠れないのですか?




低いと言っても不快なほどの圧迫感は含まれてはおらず、


その代わりにたっぷりと染み込んだ優しさについつい僕は


縋りつきたいような、泣き出したいような衝動に駆られる。


扉の近くで躊躇うように彼を見上げている僕に


彼はちょいちょいと手招きをして自分のほうへと呼び寄せた。


片一方の手で人差し指を唇につける。


静かに。


そういう風に聞こえた。


一気に関心がそちらに向いた僕は静かにそばに歩み寄った。


今まで彼の陰に隠れて見えなかったものがそっと顔を覗かせる。


僕は興味津々にそれを覗き込んだ。


それは真っ白で。


いくつも咲いている綺麗な花だった。




花…?


ええ。紫陽花という名前なんですよ


あじ、さい……


このところ元気がなかったのですが。…貴方に元気をもらったみたいですね




僕が?


元気なんてあげたつもりなんてない。


魔法だって使ってないのに。


そういうと彼は少しだけ目を伏せて私の頭をなでた。


くしゃくしゃと、少し痛かった。




そばにいるだけで、元気を上げることができるのですよ、。


……魔法なんかを使わなくてもね




僕は素直によくわからない、と呟いた。


そしてケフカはそのうちわかることですよ、とやっぱり優しく言った。




ねぇ、ならさ。僕はケフカに元気をあげたいな


私にですか?


そう最近ケフカはお疲れ気味みたい。あ、違ったらごめんなさい


……。不思議な子ですね。皇帝にも騙しとおせていたのですが




皇帝。


それはガストラのこと。


僕は今の返答から肯定へと結びつける。




ケフカに怪我とかして欲しくないから。僕、そのためならずっとそばにいてあげるね


………クス、


ケフカ?


いえ、すみません。笑ってはいけませんよね?少し、嬉しかったものですから




嬉しい。


その言葉に僕はただ呆然とした。


喜ばせるつもりじゃなかったのに。


喜ばせたいと意識していった言葉ではなかったのに。


どうして。


どうしてケフカは、喜んだの?


嬉しい?


何が…だろう。


何が、嬉しいのだろう。


わからない。


難しすぎる。


頭を悩ませる。


困ったまま黙り込んだ僕をケフカはそっとなでた。




貴方にもいつか大切な人が現れますよ……きっと。


???


その時きっと、わかるはずですよ




きっと。


ケフカは重ねていい強調して見せた。


僕はうん、と頷いた。


ケフカは僕にうそを言ったことはないから、これも本当な事だという確信があった。


それまで僕は、まとうと思う。


ケフカのいう大切な人が現れるまで。




その大切な人……ケフカ様だったらいいな




なんて、思いながら。














(紫陽花の花言葉  辛抱強い愛情、元気な女性)
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