(会って間もないころ)














 掴んだのは君だった














高いところは苦手だ。


下から吹き上げてくる風に吸い込まれそうになる。


鼓膜にたたきつけられるような音が残ってしょうがないのも。


憎悪や哀愁が一気に自分を責め立てていく気がしてならない。




「…」




は高い崖の上に来ていた。


宿を抜けて行くあてもなく。


ただふらりと足を運ばせてみればここにたどり着いた。


この場所に思い出があるわけでもないのに。


足がこちらへと向かわせた。


そして。


はそれに逆らうことなく従ったまで。




「忘れるなって言いたいんでしょ。わかってるよ」




こうやって思い出させなくても。


忘れないよ。


あんなもの。




「でも、いいんだ。もっともっと僕を罰して」




償いきれないけれども。


いくつこんなちっぽけな命並べたって


奪った命に比べれば天秤の傾きは変わらないけど――。




はじまりは一体何だったんだろう。


ふと思うことがあるこの疑問。


ケフカか、


帝国か、


力か、


幻獣か、


人間か、


神様か――




バカみたい。




両手を広げて一番苦手なはずの風を全身で感じる、


表情は険しい。


眉根は寄せ合い、唇はかみしめられ、全身に力がこもっている。


は細くて長い息を吐いた。


心細さが増していくのを感じた。




「何してるんだ?」




その声に体をピクリと緊張せせる。


振り返ったその場所には銀髪を風になびかせるロックの姿があった。


もう時期あがるであろう朝の光にきっときらめく髪の色。


きれいだな、って素直に思える。


初めて会ったあの時、見とれてしまったもの。




「僕がここで何をしていようとお前には関係ない事だ」


「関係ないはないだろ。一緒に旅してる仲間なんだし…」


「どちらにせよ、いらぬ世話だな。そんなに見張ってなくても逃げやしないさ」


「見張――」




二文字を張り上げたところでロックは黙り込んだ。


感情的になった自分に対し、ち、と舌打ちをしている。


ふ、とその様子を鼻で笑う


しかし次の瞬間、笑みがふと消えた。


ロックの表情も一瞬止まった気がした。


大きく風が仰いだ。


そう。


が崖から落ちたのだ。


口からこぼれた言葉ははるか上へと流れていく。


は一度空へと手を伸ばして、そして、やめた。


そっと目を閉じてすべてを受け入れたような微笑みを宿した。




――父さんと母さんは、


――こんな気持ちだったのかな?









 +









手を伸ばさなかったのは死にたかったからじゃなかった。


あの後君はすごい剣幕で怒って。


僕はそれをそっけなく返してしまったけど。


すべてを。


見限ったわけじゃなかった。


ただそれは、僕のちょっとした好奇心で招いてしまった事だったけど


君はあの時、重ねていたんでしょ。


デジャブだと思ったんでしょ。


僕はいつも後から気がつくんだ。




あの日あの時伝えられなかった言葉。


想い。




「あの時ね、別にロックを困らせたくて落ちたわけじゃないんだよ。


 ただ、知りたかったんだ。どんな感じなんだろうって。


 ホントにそれだけだったんだ…」




そっと彼の手に触れてみる。


細くて、長いのに、女の自分とは異なる感触。


なんとなく目を見ることができなくてしばらく手をいじっていると


彼は観念したように腰を引きよせた。




「わかってる。だけど、もう二度としないでくれよ…?」


「うん」




抱きしめる腕に力が入る。


は目を細めてからおずおずと彼の首に手をまわした。




あの日あの時。


彼は僕の手をつかんだんだ。


涙があふれた。














(ブランクが抜けませんね。やはり空くと痛いものです::) inserted by FC2 system